久遠の花~blood rose~【完】
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戻って来るなり、叶夜たちは異様な光景を目にした。
淀んだ空気。
漆黒に染まる空。
木々や草は枯れ始め、嫌な臭いが漂っていた。
特に、上条や使い魔にはキツいのか、鼻を覆い顔を歪めていた。
倉本には異常が無いようで、探せそうかと使い魔に問う。
「探せるが……」
体が思うように動かないと、使い魔は苦い表情をした。
「なら、叶夜くんと契約しな」
しれっと言ってのける少年――今はエフとなった倉本に、叶夜と使い魔は目を見開く。
「いくら貴方の指示でも……断る」
「俺もだ。第一、渡すだけの力も無い」
「そう怖い顔しなさんなって。――君もさ、好き嫌いしてる場合じゃないって分かってるだろう? それから叶夜くん、力は無くても大丈夫。魔力は私が供給してるから、必要なのは、貴方の適応能力」
首を傾げる叶夜に、エフは続ける。
「こーいった違う空間に適応するには、違う質の魔力が必要でね。普通は正式な契約者からもらえるものだけど、この子の場合はそれが出来ない。――だから、手っ取り早く他と契約するのが一番!」
叶夜は話に納得したものの、使い魔は相変わらず、叶夜に対していい顔をしてはいない。
「今のままでも、何とかなる。――早く行きましょう」
歩き始める使い魔。一度言い出したら聞かないようで、エフは呆れた表情をしていた。
「うちのがごめんね。焼いてるだけなんで、気を悪くしないで?」
「俺は別に。嫌われるのは慣れてる」
「なら安心。でも、契約は必要になると思うから、そのつもりで~」
「何をしているんです。移動しますよ」
使い魔に急かされ、エフと叶夜は足早に歩き始めた。
*****
空は黒をまとい、光も届かぬ世界。
大地は枯れ、生き物が死にゆく世界。
前者が三日、後者も三日。
そして――最後は、白い光が埋め尽くす世界。
この世界における終末の預言。これは、過去に現実に起きた出来事だが、最後まで預言通りのことが起きる前に、シエロがそれを防いでいた。今回もそれぞれがそのつもりで動いているが、思ったより進行の早いこの現状に、苦戦を強いられていた。
「ったく……悪趣味ね!」
エメは吐き捨てるなり、目前にいる敵を蹴り倒す。
彼女が相手にしているのは、つぎはぎだらけのモノ。ヒト型をしているが、身体能力は暴走した雑華以上――つまり、化け物級というわけだ。そんなのがうじゃうじゃいるだけでも面倒なのに、更に王華の重鎮が数名、円を描くように囲っている。だが、自分たちは戦わずに高みの見物。ヒト型にやらせるだけで、エメが戦う様を、舐めまわすような視線でニヤニヤ眺めていた。
「アンタら、自分の子どもに何させてんのよ!?」
「こんな化け物が子ども? ははっ! 笑わせてくれるのう」
「ただ己の血を使って創った――それだけではないか」
グラスにワインを注ぎ、優雅に語る重鎮。彼等にとって、これはただの遊戯。単なる暇潰しの一つでしかない。
「我々の相手をしろ。そうすれば、もっと長生きが出来るぞ?」
「誰がそんなことっ!」
「楽しくやろうではないか。狂楽に溺れるのも、中々いいものだ」
高笑いする面々に舌打ちすると、エメは左腕を使い、地面ごと豪快に敵を吹き飛ばした。
「本当……腐ってる。玩具として使うだけ使って、壊れたら実験台とか」
エメが睨みつけているのは、ワインを飲んでいる重鎮。個人的恨みもあるのか、その者に向ける視線は特に鋭かった。
「この子たちは物じゃない! 神にでもなったつもり!?」
「何を言うかと思えば。――実際、【あの方は神】そのもの。従わないなど、気が振れているとしか思えない」
グラスを放ると、男は近くにいた子どもを地面に押し付ける。
――ぐちゃっ。
「っ!?……なに、して」
エメの位置からでは、子どもが何をされているのか見ない。
――ぐぶっ。
「やめなさいよ」
しかし、血飛沫(ちしぶき)や呻き声ならわかる。
――ざしゅっ。
「やめなさいって言ってるでしょ!?」
飛び上り、男に向かって蹴りを放つ。
別の子どもに手をかけようとするのが目に入り、エメは重鎮である男の首をへし折った。