久遠の花~blood rose~【完】

「実に愉快な素材じゃのう」

「本当、まだまだ研究したいものだ」

 高笑いを上げる重鎮たち。警戒しながら倒れている子どもを見れば、動く気配は無い。完全に息の根は止まっているのだろう。

「うまく出来たと思うが――どうじゃ?」

 微かに、エメの腕が震える。
 横たわるのは、緑の瞳をした少女。血まみれでもはっきりとわかるその顔は――。



「本っ当……悪趣味」



 エメと、同じ顔をしていた。

「こんなことするより、治療に専念したらどうなのよ!」

「ホントだねぇ~」

 緊張感のない声。
 振り向けば、笑顔の雅がエメの隣に降り立った。

「一緒にいるって言ったくせに……忘れたの?」

 背後から抱き付く雅に、今はそんな時じゃない! と言うエメだったが、

「イイから聞いて」

 真剣な口調になる姿に、エメは引き離すのをやめた。

「双神(ならびがみ)は男女一対なんだから、揃ってなくちゃ」

「? 何言って――」

「隠さなくてイイの。――オレ、もうわかってるから」

 抱き付くのをやめると、雅はエメの隣に立つ。

「ホンモノじゃないけど、力を出す条件は同じだろう?」

「そうだけど……」

「だったら決まり!」

 瞳が輝く。本気で一緒に戦う気なんだとわかったエメは、大きくため息をついた。――けれど、雰囲気は何処か楽しげで。



「力に翻弄されても知らないからね」



 瞳を輝かせ、口元を緩めていた。

 /////



「――――この先」



 立ち止まると、使い魔は森の奥を睨みつけた。
 足を踏み入れれば戻って来れないと思えるほどの闇。恐怖なんてものを体感した経験は少ないが……この先は間違いなく、今まで生きてきた中で一番恐ろしい場所だ。

「あ~やっぱり結界あるか」

 腕組をしながら、エフは眉をひそめる。

「空間も境も曖昧。これじゃあ中は未知の世界っ――?」

 どうしたのかと思えば、エフは使い魔の肩に触れる。

「――もう、限界なんだろう?」

「っ……、、、」

 言葉を発せず、息づかいだけで答えている。使い魔の顔色はあきらかに悪い……。

「契約をすれば、よくなるのか?」

「おそらくね。ほら、君からも頼みなって」

「っ……ぁ、だっ!」

 頑なに、俺との契約を拒む使い魔。無理もないが……。



「――――頼む」



 俺一人じゃ、助けることは出来ない。それはすでに、過去で証明されている。周りが止めるのも聞かず、単身乗り込んだ結果がどんなものだったか……また、同じ過ちを繰り返したくない!



「力を……貸して下さい」



 頭を下げ、使い魔に懇願した。

「勝手な真似はしない。だから頼むっ!」

「…………」

「君の方が年上のに、恥ずかしかしくないの?」

「……関係っ、ないでしょう」

「まーね。でもこれ以上ワガママ言うなら――わかるよね?」

「…………」

 エフの圧力に負けたのか。渋々だが、青年はようやく契約をすることに折れてくれた。

「方法は?」

「叶夜くんはじっとしてて。この子がちょっと血を吸うだけだから」

 ……今、使い魔があからるさまに落ち込んだような気がする。
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