久遠の花~blood rose~【完】

【これは我らの罪……ソレを呼び起こしてしまった我らと人間は、ソレに従うしかない】
 伝え聞いた伝承とは別な話に、シエロはページをめくり続ける。
【我らは、ソレから大事なモノを奪った。だから我々は、ソレから奪ったモノを再現しなくてはならない】
 再現――なら自分たちは、ソレに捧げられる生贄なのかと、シエロは首を傾げた。
【ソレが求めるモノを再現すること――それが、我らに与えられた罰。ソレに安らかな眠りを与えなければ、この世界そのものの存在が危うくなる】
 文面から読み取るに、命華は生贄というわけではないらしい。
 とりあえず、命華が使われる理由にシエロは納得した。
【名も忘れたようなモノに怯えるなど可笑しい。近頃、そういった者が増え始めた】
 幾つ目かの本。それは、レフィナドより三代前の長が記していた。
【彼等は、我らが再現した存在を使い、ソレを超えた存在になろうとしている。長の体は、時期が来ればソレの意思を成し遂げる存在になるというのに……彼等は、ソレを殺そうというのか】
 その文章で、シエロは理解した。
 この時の誰かが、美咲を求めている。自分の時に子どもを作らなかったのは、ただ単に、ソレを抑える力が弱かったからだと。

「――――起こしてしまえば」

 おそらく、ソレは安らかに眠りたかっただけなのだろう。だが、大事なモノを奪ったことにより、それが出来なくなってしまった。
 この世界の存在が危うくなる程のソレは、創造主と言っていいだろう。
 長の中にいるソレの意思――本来の目的を持った存在を呼び起こせば、このような事態は終息する。そう考えたものの、実際には何をすればいいのか。
 新たな疑問に悩みながら、シエロは急いで上条の気配を探した。

 *****

 ぽつぽつと、一定のリズムで落ちる雫。光が届かないここは洞窟。その中を一人、蓮華は歩いていた。



「――――ここか」



 辿り着いたのは、淡く、青白い光に包まれた空間。周りの岩は、鏡のような輝きを放っている。――しかし、そこに蓮華の姿は映し出されてはいない。奥に進むと、凹凸の無い均一な岩が現れた。
 すると、蓮華は首に下げていた物を外し手に巻き始めた。手の平の中央に石がくるように巻くと、その手で岩に触れた。
 途端、ゆらゆらと光り出す岩壁。しばらくすると、そこに男性の姿が映し出された。

『何を――知りたい?』

「誰も傷付けず、この現状を納める方法だ」

『既に、赤の命華が箱を封じたのでは?』

「それは数千年も昔だ。今は、別な者まで動いている」

『別なモノ?――成程、貴女の思考を読み取るに、長の中に異分子がいると?』

「そうだ。長の中に、代々何かがいるのは知っている。だがあれは違う。本来、長ともう一つ――別の意思のようなモノがあるはずだ。けれど、あれにはそれと別のものを感じた。方法があるなら早くしろ。預言は最終段階だ」

『そこまで来ていたか。だったら――その異分子を排除すればいい。長の体に残っている魂。本来の体の持ち主である長を呼び起こし、内側から攻撃する』

「簡単に言ってくれる。ほとんど痕跡は無くなってきているというのに」

『なら、器を破壊することだ』

「はっ、もっと難しいことを」

『そんなことはないだろう。貴女の力の根本――それは【静止】だ。攻撃でなくそれに特化すれば、好機は訪れると思うが?』

「……まぁ、少しは参考にはさせてもらおう」

『好きなように。また何かあれば来い』

「機会があればな」

『なんだ、やけに冷たいな?』

「今に始まったことではないだろう?」

 ではな、と言いながら、蓮華は背を向けた。



『――――レンカ』



 足を止め振り返ると、男性は悲しげな表情を浮かべていた。

『役目を任せて……すまない』

「何を言うかと思えば。……謝るのは、私の方だ」

 男性がここから出られない理由。それは、蓮華が原因だった。
 王華が里に侵入し、仲間を連れていかれた蓮華は、力が暴走し目の前の男性を巻き込んでしまった。咄嗟に男性は防壁を張り生きながらえたものの、蓮華の力で覆われたそこから抜け出すことが出来なくなってしまった。

「未だに術が見つからない。仲間を巻き込むなど、長として失態だ」

『そう責めるな。むしろ俺は、お前同様長生きでることは得だと思うぞ。――感情はどうする?』

「以前より増しているのか?」

『今見た様子ではな』

「ならば消す」

 再び、岩壁に手を添える。
 同じ過ちを犯さぬ為、感情を希薄にする作業を、蓮華は進めて行った。
< 182 / 208 >

この作品をシェア

pagetop