久遠の花~blood rose~【完】
/7
辿り着いた先にあったもの。それは、空に届くほど高くそびえる塔。神々しい雰囲気だが、少し離れると、辺りには黒い霧のようなものが蠢いている……。
今のところ体に異常は無いが、アレには触れない方がいいだろう。
「妙な空間だねぇ~」
帰れるといいけど、とエフは苦笑いを浮かべる。
「門を護る者もいない、か」
それだけ自信があるのか。それとも――。
「何にせよ、楽して入れるならいいじゃん。こっちが油断しなきゃいいんだし」
気を引き締め、塔の中へ足を踏み入れれば――。
「っ――なん、で」
鉄格子を揺らす音。
言葉にならない叫び。
今見える全ては、ここに在るはずの無い――俺が産まれた場所と、同じ空間が広がっていた。
「いきなり実験場だなんて、歪な造りしてるね」
間違いなくあの場所だ。でも……どうしてこの場所に。
「――――ねじれてる」
ぽつり、使い魔が呟く。
「空間だけじゃない。おそらく、ここに流れる時間も違う」
「君たちが挑む相手ってのは、かなり手強いやつだね」
「歪んでいるなら、美咲の居場所はどうなる?」
「問題無いが……あまりいいとは言えない」
時々気配を見失うらしく、その度に多く力を使うらしい。だからあまり戦闘では期待するなと、念を押された。
「んじゃとりあえず、上に行こうか」
ここには、敵らしい敵はいない。
音はすれど、誰かがいるような様子は無かった。
階段を上がりおえると、一つのドアが見えた。ノブに手をかけ、ゆっくり回し開ければ――目の前に、十字に建てられた物が見えた。
夕暮れの草原。
大小様々な十字の木。
見るからに、ここは埋葬場所だろう。先程の部屋同様、誰の気配も感じない……。
本当、この空間はなんなんだ。
風や音も本物としか思えない。だというのに、誰もいないなんてこと――。
「ちょっ、何してんの!?」
突然、使い魔は一心不乱に地面を掘り始めた。少年が止めるのも聞かず、あっと言う間に人ひとり分の土を掘り返したと思えば、
「っ!?――――あ、るじ」
小さく、そんな言葉が耳に入った。
まさか……これが美咲?
出てきたのは、体を折り曲げたままの遺体。顔は潰れ、所々肉を剥ぎ取られている。
「おい……まさか本当にっ」
「【今の】ではないが……主だ」
「? どういうことだ」
「この主は……四度目の肉体だ」
「随分酷い状態だけど、君が殺したの?」
「……殺された。何かの儀式に使われたらしい」
「ってことは――ここは君の記憶か」
その言葉に、俺と使い魔は首を傾げた。
「さっきの場所は叶夜くんでしょ? おそらく、この塔は上る者にとって辛い記憶――嫌な記憶を再生してるんじゃないかな?」
「そんなことをして、意味があるのか?」
「そいつが何をしたいかなんてわからないけど、普通はそーいったのを見せられれば贖罪の念にかられるし、上りきる前に自殺、なんてこともあるんじゃない? ま、人の闇を再生するならすればいいさ。次は私のかな? 楽しみだねぇ~」
微笑みながら、エフは土を被せ始めた。
「ほら、綺麗に埋め直す」
言われて、俺たちは最初に見た時よりも丁寧に土を戻した。
「よし、次に行こうか」
草原の真ん中。そこに、不自然なドアが一つ。
この先には、どんな光景があるのか――。
順番どおりにいくなら、次はエフの。
「自分で開ける」
ノブに伸ばした手を遮り、エフが言う。
そしてにこやかな笑顔のまま、ゆっくりドアを開いた。