久遠の花~blood rose~【完】
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森を駆けていれば、遠くで破壊音が聞こえる。音のする方へと向かえば――そこには、雅とエメの姿があった。
周りには化け物が数対。そして――蓮華にとっては好ましくない、王華の重鎮がいた。
「――試すには丁度いい」
呟くと、蓮華は一体の化け物の前に姿を見せる。そして――。
「なんだ、呆気ないものだな」
手をかざすだけで、化け物の動きを止めた。
「お前がスウェーテの長か?」
「は、はい。でも、どうして貴方が」
「お前たちに逝かれては、美咲に顔向けできぬからな。――雅」
思わず強張る体。それだけ蓮華の声には、威厳が感じられた。
「十数えたら、出来るだけ高く飛びあがれ」
それだけ言うと、蓮華は背を向けた。
「誰かと思えば――華鬼の長ではないか」
「また昔のように、実験に参加したくなったのかのう?」
怪しく笑う面々。
しかし、何を言われても、蓮華は顔色一つ変えない。
「相変わらず、華鬼の長は感情と言うものが無いらしい。ついには言葉も失い始めたか?」
より一層高まる笑い。そんな中、蓮華は静かに、片手を胸に添え目を閉じる。
そして、背後で雅が飛び上った気配を感じると、
「――――氷原(ひょうげん)」
白い吐息が、波紋のごとく大地に広がる。異変を感じた重鎮たちは避難したが、化け物は全員、氷で覆われてしまった。
一瞬にして動きを止める力に、重鎮たちは苛立ちを露にした。
「なんてことっ……創るのにどれほどの時間を要したと思っている!」
今まで傍観するだけだったが、ここまでされては黙っていられなくなり、重鎮たちは武器を手にした。
「雅、お前は長と共に行け、時間が無い」
エメに視線を向ける蓮華。頷くエメは、ここから離れることを決意した。
「ほら、エル!」
言われて、雅はエメと共に姿を消した。二人を逃がしたことは惜しいようだが、今、重鎮たちの興味は蓮華に向いていた。
「力を解放しよったか。――また、仲間を巻き込むことになるぞ?」
「巻き込む相手がいない」
刹那。重鎮たちの血の気が引く。
「ひっ、……ご、ぅ、、」
たった数秒前まで、自分たちが有利だと疑わなかった。狩るのはこちら。あちらは狩られる側だと。
ある者は足を動かす。
〝けれど動かすモノが無い〟
ある者は腕を振り上げる。
〝けれど動かすモノが無い〟
あまりにも一瞬で、綺麗で無駄の無い動き。
「今頃恐れても遅い」
砕ける体。切り離された頭部は、崩れゆく己の様をその瞳に移すのがやっと。
「その身で体験出来たこと、光栄に思え」
理解した時には既にカタチが無く。起こしてはならぬ獣を起こしたことを後悔し――歓喜した。
それは重鎮たちが理想とする、最高の壊し方だった。