久遠の花~blood rose~【完】
「命華は、俺たちにとって大事な存在。――『命を繋ぐ』存在だ」
「命を、繋ぐ?」
「俺たちにとって、花が生きる為の糧になる。人間がする食事が花だ」
「それと私と……どんな関係が?」
「糧になる花を作れるのが、その命華だ。それ以外にも命華は、医者みたいな存在であり、さっきみたいに触れることで、力が回復する場合もある。――文字通り、『命の華』ってところだな」
「だ、だから、あんなことを?」
「本当はもっと深い方がいいらしいが、それはさすがに嫌だろう? 俺としてもそういう行為を無理強いしたくはない」
一応、気遣ってくれてたんだ。確かに、あれ以上のことなんてとんでもない。あれよりも凄いことをされるぐらいなら……多少不満はあるけど、まだ額にされる方がいいと思えた。
命華がどういうものなのか少しはわかったけど、それが自分だと言われても、いまいち納得できない。……とりあえずは。
「叶夜君たちにとって、必要な存在……ってことですよね?」
頷く叶夜君。それを見て、なんだか不思議な気持ちになった。必要とされるのが嬉しいような、残念なような。自分でも理解できない気持ちが、私の中に渦巻いていた。
「すぐに、全部を理解しなくていい。ただ……これからは、一人にならない方がいいだろうな」
途端、嫌な予感がした。
それって……また、あの影みたいなのに襲われるってこと?不安に駆られ、私は徐々に、表情を硬くしていった。
「――大丈夫」
そう言って、叶夜君は私の右手に、自分の手を重ねた。一瞬驚いたものの、徐々に伝わってくる温もりが心地よくて……それが少しずつ、不安な気持ちが和らげてくれた。
何か言うわけじゃないけど、こうやって静かな時間は、とても安心する。
落ち着いてきた私は、今更ながら、叶夜君の正体が気になってきた。
「叶夜くんって……普通じゃない、ですよね?」
人間とか。花が糧になると。今までの話を聞いていたら、さすがに“人じゃない”ということが想像できてしまう。
「今更だな。言ってもいいが――逃げるなよ?」
逃げるなって、なんでそんなこと。
「べ、別に、無理して言わなくてもいいですよ?」
「どうせいつかバレる。――俺はな」
ゆっくりと、丁寧に言葉を発する叶夜君。その先を聞きたいような、聞きたくないような……なんとも言えない感覚が、体を包んでいく。
徐々に距離を詰められ、なにを言うのかと、緊張で胸がドキドキし始めていれば、
「人間が恐れる――吸血鬼だ」
と、小さく、そんな言葉が聞こえた。
それって……人の生き血を吸う、あの?
ただの冗談かと思った。でも、その目は嘘を言ってるようには見えなくて。
「本当……ですか?」
今の言葉を確認するように、思わず聞き返していた。
「人間は俺たちをそう呼んでる。だから俺も……な?」
叶夜君の指先が、すっと首筋に触れる。途端体は強張り、そんな私を見た叶夜君は、どこか楽しげな雰囲気を放っていた。
「逃げるなって言っただろう? ま、本気で逃げても無理だが」
じりじりと迫る叶夜君。自然と体を後退さ続ければ、
「もう――後が無いな」
ついに、壁際へと追い詰められてしまった。
叶夜君の両手が、私の両手を押さえつける。
無言のまま見つめられ、怖くなった私は、思わず顔を背けた。
「――っ!?」
首筋に、やわらかな感触が走る。それが唇だと分かった途端、体がビクッと、大きく震えた。血を吸われる。そう思ったら、余計に震えが増してしまう。