久遠の花~blood rose~【完】
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目の前にある情報を処理するのに、俺の頭は時間を要した。
月は欠け、歪な形。降り注ぐ光は不思議な色を放ち、感覚を鈍らせていく。
美咲を中心とし、その周りに開く大きな花。高さは数メートル。飛び上がり引きはがそうとするも、美咲の体はしっかりと繋ぎとめられていた。
「美咲っ、美咲っ!」
呼びかけても反応は無い……。
体の周りは樹脂のようなもので覆われ、美咲の皮膚は硬化していた。
これだけでも頭が一杯なのに、更に困惑させたのが長の行動だ。花が咲くのを見届けると、高笑いを上げながら自らの首を切り裂いた。まだ血は流れているが、もう動く気配は無い。
「――――やられたか」
振り向けば、眉間にしわを寄せた蓮華さんが立っていた。
「下りて状況を説明しろ」
「でも美咲がっ」
「早くしろ」
有無を言わさぬ口調。これ以上拒めば命が無いと思えるほど、蓮華さんの雰囲気は違っていた。渋々下りれば、蓮華さんは胸の傷を手当てし始めた。
「出血が酷いな。――それで、この有様はどういうことだ」
「長がっ。美咲の腹に剣を刺した途端……」
「それでこうなったのか?」
頷けば、蓮華さんはまじまじと花を見つめる。
「――――遅かった」
嫌な言葉。淡々と、蓮華さんは続きを話す。
「体はここに在るが、残っていた魂も無い。――助けても、魂が無ければ肉体は維持出来ぬ」
胸の傷を塞ぐと、蓮華さんは手にしている短剣を俺に手渡す。
「始末をつけろ」
「っ!?…………始末」
「魂を戻せる保障は無い。ならばせめて、これ以上利用される前に逝かせてやるべきだろう」
「――だからっ、言ったんだ」
よろめきながら、使い魔がオレの前に立つ。
「どのみち殺すことになるのに……何故やらなかった!? 今更怯えでもしたか!」
怯えなどない。ただ……ただ純粋に、死んでほしくなかった。生きてほしいと、そう思っただけだ。
「落ち着け。開花したものはしょうがない。――長は、寿命が尽きたのか?」
見れば、体はまだ残っている。あいつは自殺なんだから、体が消えるはずなのに……。
「自分で、首を切り裂きました」
「ならば、肉体が既に終わっていた、というところか。叶夜――体に変化は無いか?」
「特には。傷も、もう塞がっていますし」
「それは妙だな。長は肉体が使えなくなる前に別の体に移るもの。お前という体があるのに……何故それをせずに死を選んだのか」
言われればそうだ。あいつは花を欲しがっていたのに、それが手に入った途端死を選ぶというのはおかしい。
自分の胸に手を当てる。――鼓動は正常。今のところ、体に異常は起きていない。
「当然だよ。ここではもう、〝体は不要〟なんだから」
背後から声がする。振り向けば、エフは腹を押さえながら立っていた。
「この空間は変わったんだ。今までいた物質界から創造界、ブリアーと呼ばれる領域にね。――ったく、彼女の力は強いや。まだうずいてる」
苦笑いを浮かべるエフに、使い魔は肩をかす。
「ありがと。まぁ簡単に言えば、ここは〝意思の世界〟ってとこかな。多分、君たちの長は〝自分を作り変える〟んだよ」
エフが話すことは、どうやら蓮華さんも知らないようだ。終始、エフの話に関心を示している。
「よくわからないが……どうにかして、美咲を救えないか?」
長のことはどうでもいい。今俺が考えるのは、美咲を救う方法だけだ。