久遠の花~blood rose~【完】
「お前まだそんなことっ!」
「こら、そう熱くなるなって。私だって救いたいけど、それは彼女次第ってことしか言えないね。ってか、今は自分の身を心配するべきじゃないの?」
にこやかに指を向けた方を見れば、地面に広がっていた血が、一つに集まり始めていた。
「へぇ~。ただの意識だけで来るかと思ったけど、血を使うんだ」
咄嗟に、オレと使い魔は鼻を覆った。異臭がするだけじゃない。あれには、何か嫌なものを感じる……。
「――呪いの元か」
呟くと、蓮華さんは懐から石を取り出し、それを四方に投げる。
「あれはこちらで対処する。――叶夜、お前は美咲を探せ」
「? 探せと言われても」
美咲は、目の前にある花の中心にいる。蓮華さんにもそれは見えているはずなのに、何故そんなことを……。
「華鬼の長、あなた気付きましたね?」
「当たり前だ。私は箱にも入ったのだぞ? 厳密に言えば、お前のことも理解している」
「ありゃ、それもですか。こっちはついさっき自覚したってのに」
「こちらはこちらの情報があるからな。お前たちも、払うのを手伝え」
「わかってますよ。こっからは叶夜くんしか出来ないですから」
結界から出る二人。会話の意味がわからず、俺はその場で呆然としていた。
「――――うまくやれ」
何か呟くと、使い魔は俺を睨む。
「お前に、本当にそんなことが出来るなら……必ず助けろ」
そんなの当たり前だ。だが、どうやればいいかわからない……。
俺は蓮華さんのように、魂に詳しいわけじゃない。特化しているのは壊すこと。目の前にある花から美咲を引き離せと言われる方が俺向きだろうに、形の無い、ましてや見えない魂を探すなんてこと、何故、俺にやらせるんだ?
「よく思い出すことだ。あの方や華鬼の長。そして――過去に主と交わした言葉を」
過去に交わした言葉……ダメだ、ますますわからないっ!
混乱する思考。なんとか落ち着こうと自身に言い聞かせ、順を追って思い返すことにした。
蓮華さんは、体はあるが魂が無いと言っていた。それから、魂が無ければ肉体は維持出来ないと。なら早く探さなければ、魂があっても戻るべき体が使い物にならなければ無意味となってしまう。
エフは確か……ここは別の領域、創造界になったと言っていた。だから長は体を必要としなくなったらしいが、なら今、あの血を操っているのは……。
「――――意識、だけ?」
操っている大元。目に見える肉体は無いが、力が働いている。だとしたら、長の魂がここに存在しているということになる。
『多分、君たちの長は〝自分を作り変える〟んだよ』
そう言えば……何故、作り変える必要があるんだ? この世界では体を必要としないと言っていたはずなのに――。
『――、■■■――――』
脳裏に、覚えの無い音が浮かぶ。――ずきり、頭に走る痛み。それに比例し、覚えの無い音は言葉と化す。
「さぁ――じっくり思い出しな」
倒れる体。意識が薄らいでいくというのに、それに逆らおうという気は起きなかった。
――――――――――…
――――――…
―――…
「――…。――ァン?」
誰かが、俺に話しかける。ゆっくり目蓋を開ければ、女の姿が目に入った。
「眠いなら、話はまた今度にしますよ?」
風が、女の髪を揺らす。
白銀に、左右色の違う瞳。こいつは――美咲の最初の姿?
「――いえ、続けて下さい。もっと詳しく知りたい」
口が勝手に動く。俺の体なのに、今ここにいるオレは、自分の思いどおりに動かすことが出来ない。
「そうですか? えっと、次は世界の成り立ちについて、ですよね? 世界とひとくくりに言っても、それぞれカタチがあり、いくつもの未来――そして同時に、いくつもの現実が並行して存在しています。
例えば、今はあなたとこうして話していますが、話していないという世界も存在します。どのような未来になるかは本人次第ですが、ある程度の力を持つ存在であれば、別の世界や空間に干渉できるでしょうね」
「なら、貴女にはそれが出来るのでは?」
「できたとしても、私はそれをしようとは思いません。それをすることに意味を感じませんので。――どうせ力を使うなら、みなが笑ってくれる方がいいでしょう?」
少しずつ、この時の美咲のことを思い出してきた。
いつもそう。自分のことでなく、相手の為に全力を尽くす。そんな姿に尊敬を抱き――好意を寄せていた。