久遠の花~blood rose~【完】

「……怖いか?」

 唇を離すなり、艶のある声で問われた。
 もちろん怖いに決まってる。こんなに密着して、手を押さえられて。うるさいくらい心臓は鳴り響き、叶夜君に聞こえるんじゃないかって思えるぐらい、鼓動は速さを増していった。

「や、……やめ、てっ」

 振り絞るように出した声。その声は弱々しく、小刻みに震えていた。

「――こっちを向け」

 何か聞こえたと同時。顎に手が添えられ、目を合わすよう促(うなが)された。
 片手が自由になったのに、動かすことができなくて。言われるがまま顔を向ければ、澄んだ青い瞳が、射るようにまっすぐ、私をとらえていた。

「…………」

「…………」

 視線が合った途端、目をそらすことができなかった。その瞳はとても優しく、恐怖など感じない。代わりに儚く……消えてしまいそうな、そんな瞳をしていた。

「やはり――効かないか」

 ぽつり何か呟くと、叶夜君はもう片方の手も離す。
 思わず視線をそらせば、それまで真剣みを帯びた雰囲気だったのが一気に和らぎ――叶夜君から、小さな笑い声がもれた。
 ゆっくり視線を向ければ、叶夜君は私から少し離れ、笑いを押し殺していた。

「悪い悪い。ちょっとからかっただけなんだ」

「か、からかった、って……」

 迫って来たのも、首にキスしたことも――全部?

「血なんて吸うわけないだろう? さっきも言ったが、俺に必要なのは花なんだから」

「だ、騙したんですか!?」

「だから悪かったって。そんなに怒らないでくれ」

 これが怒らずにいられるわけがない。さすがの私も、叶夜君を叩かずにはいられなかった。

「本当に……本当に怖かったんですからね!?」

 叶夜君の腕を、何度も平手で叩く。それを笑いながら防ぎ、反省してると言うものの、笑いながらだと真剣みが伝わらない。

「吸血鬼って言うのも嘘なんでしょう!?」

「いや、それは本当だ」

 さらっと言われ、私は叩く手を止めた。
 もう、何がなんだかわからない。
 血は吸わないけど吸血鬼って……どういうこと?

「だって今……血は吸わないって」

「吸わないが、そう呼ばれてるから仕方ないだろう? 仲間に吸う者がいるのは事実だからな」

 本当に……吸血鬼、なの?
 考えを巡らせるも、答えなんて出るはずもなく。
 ……頭、痛いかも。
 おでこに触れれば、少し熱を持っているのか、ほんのり熱い。今日はもう、これ以上考えるのも、話を聞くこともやめにした。そうしないと、頭がパンクしてしまう気がしたから。



『――――…ロセ』



 ? 今、なにか音が。



『――――…ロセ』



 やっぱりだ。どこからか、音が聞こえる。なにを言っているのかわからないのに、これを知ってると、私の中でなにかが反応を示す。

「――どうかしたのか?」

『―――…ロセ! メイカに、…を』

 心臓が、バクバクと音をたて焦っていく。
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