久遠の花~blood rose~【完】
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リヒトとシエロは、足を止めていた。影に邪魔されたからではない。目の前に現れた人物が、あまりにも知人に似ていたからだった。
「あぁ~やはりそうなりますか。ご安心下さい。僕は雅から連絡を受けてきた者。顔が長に似てるのは、血縁関係にあるからです」
白髪に、琥珀色の瞳の男性。気配は雑華だが、血縁関係と言う言葉に、二人は首を傾げた。
「僕は、長が雑華を使って産ませた子ども。でも駒として使われたことは一度も無いので、どうぞご安心を。――さぁ、急いで来て下さい」
「何処に……向かうと言うのですか?」
「エメの体を、箱が封じられていた場所へ」
途端、シエロは顔色を変えた。
「それは……彼女が望んでいるの?」
「えぇ。大元はみなさんがどうにかしてくれるだろうから、残った影は私が。でなければ、シエロさんや始祖が消えてしまうだろうからと。なので、あなた方には生きてもらわなければ困ります」
「やれやれ。私たちの行動は予測済み、ということですか」
「そういうところ、エメは鋭いので。――では、ついて来ていただけますね?」
頷く二人。それを見た男性は、二人を箱が封じられていた洞窟に案内した。
空の色は、相変わらず赤黒く不気味なまま。だが、影や雰囲気が変わり始めているのを三人は感じていた。
洞窟につくなり、男性はエメを渡してくれと言う。
「最後ぐらい、らしいことをしてやりたいので」
「! では、あなたがエメさんの――?」
「ははっ。一応そうなります」
二人の関係性がわかったリヒトは、それなら早く言ってくれればと、少し驚いていた。
「あの時はまだ、お二人は僕のこと警戒してましたから。――足元、気を付けて下さいね?」
男性を先頭に、洞窟の奥へと進んで行く。普段なら深層部まで行くには結界を抜ける必要があるが、今はもう、その力は消えているようだ。
「あのう……具体的に、何をするんですか?」
「赤の命華が命を絶った場所、そこにエメを置きます。あとは自分でどうにかすると言ってたので、事が起きるまで、エメを護りきれば大丈夫です」
「護るって……何から」
「残っている影です。――いわば餌。エメは自分の体を使い、根こそぎ封じるつもりです」
「でも、彼女一人でなんて」
「そこはご心配なく。反対側では、雅が長の体を運んでいる頃かと」
驚きの表情を浮かべる二人に、男性は更に続ける。
「これは、長とエメの二人が考えていたことらしいです。エメ曰く、これぐらいしないとみんなに悪いわと。――万が一に備え、闘う準備はしておいて下さい」
エメを地面に横たわらせると、男性はエメの左手を握り顔を近付ける。
「あとのことは、ちゃんとするから」
ぽつり囁くと、男性は気持ちを引き締めた。
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塔から抜け出た蓮華たちは、雅を先頭に何処かへと走っていた。いつまでも行き先を告げない雅に、使い魔は大声で問いただす。
「何処に行くか言え!」
「言ってもこの世界の場所とかわかんないだろう?」
「なら、どうしてそこへ向かっているんだ。それぐらい説明しろ!」
「残ってる影を閉じ込めるんだよ」
思わず、蓮華と使い魔は顔を見合わせた。
「反対側じゃ、今ごろ琥珀がシエロさんたちを案内してる。蓮華さんには悪いけど、こっちは長を使って影を閉じ込めるから!」
「っ! 何故……死んだ者を使う」
「さぁーね。オレは記憶として、エメから任されただけだから。長も体を使うことには了承してたらしいよ」
行きついたのは、王華と雑華の戦争が起きた場所。今でもその時の名残か、武器や防具などの残骸がちらとほらある。
蓮華も知っているその場所は、雅にとっては特別な、エメが初めて完全発症した場所でもあった。
長の体を地面に横たわらせるなり、雅は使い魔の手を引く。
「オレたち、ちょっと周りを一掃してくるから」
「ちょっ! 何故オレまでっ」
半ば強引に使い魔を引きずり、蓮華をその場に残して行った。
「――気を使われてしまったか」
最後の別れをしろということだろうと思った蓮華は、長のそばに腰を下ろした。
血は止まっているが、生々しい傷が目立つ。特に首の傷が深く、蓮華は体に残っている傷を消した。死んだことを知らなければ、寝ていると思えるほど綺麗になった姿。その姿を、蓮華はしばらく黙って見つめていた。