久遠の花~blood rose~【完】
「だ、大丈夫、ですか?」
その問いかけに、返事は返ってこない。何がどうなっているかわからない私は、ただ心配するしかできなくて、
「ほら、早くこっち見なよ」
挑発する雅さん。それに男子はゆっくりと、覆っていた手を外す。
「えっ……なんで」
目の前の光景が、不思議でならなかった。だってそこにいるのが、まさかの叶夜君だったから。
「……責任取れよな」
「油断したアンタが悪いんだよ」
一体…どういうこと?どうしてこんな所に居るのかと思えば、
「「「カッコいい~~~!」」」
先程よりも一際大きい声が、食堂内に響いた。
「…………だから嫌だったんだ」
そう呟く叶夜君は、なんとも疲れた表情をしていた。
「叶夜君……これって」
「今は、何も聞かないでくれ」
諦めたような表情を浮かべながら、叶夜君は髪をかき上げる。それがまた絵になる仕草で、周りの女子たちの反応は尋常じゃなかった。
「とにかく、ここから出よう」
「そ、そうですっ!?」
言い終わる前に、叶夜君は私を抱え走り出す。置き去りになる杏奈に何も言えないまま、私たちは食堂から逃げ出した。
どこに行くのかと思えば、叶夜君は周りの目を盗み、一瞬にして屋上へと飛び上がる。相変わらずすごい身体能力だなって感心していると、叶夜君はそっと、私を下した。
「――ここなら話が出来る」
途端、今更ながら恥ずかしさが込み上げてきた。
何で学校に居るの?とか。色々聞きたいのに、うまく言葉が出てくれない。
「えっ……と」
「とりあえず――座らないか?」
「あっ……はい」
壁を背にして座る叶夜君の隣に、私は少し間を開けて座った。
「さっきのことだが……」
申し訳なさそうに話す叶夜君。それに私は、真剣に耳を傾けた。
「俺の目……青いだろう?」
「はい。でも、それがどうかしたんですか?」
「さっきまでは、眼鏡で色を変えていたんだ。そうしないと、強すぎるからな」
強すぎるって……光が、とか?
私の疑問を察したのか、叶夜君は懐から眼鏡を差し出した。
「あれ? さっき取られたんじゃあ」
「これは予備だ。だからさっきのより、作りは悪いがな」
手に取ると、付けてみなと勧められ、私は言われたとおり眼鏡をかけた。度は入ってなくて、色も特に変化など無く。どこにでもありそうな、普通な眼鏡にしか思えなかった。
「それ、ただの眼鏡とは違うんだ」
「でも……別に、変わった感じはないですよ?」
「おそらく、君は“魔眼”じゃないんだろう。仮にそうだとしても、オレとは違う部類だから、それだと変化を感じれないんだ」
「魔眼? だから色が違う、とか?」
「そんなとこだ。俺の目は……“支配の眼”なんだ」
「支配って……相手を思うままに出来るんですか?」
「力が強いとな」
「じゃあ、あの時目を見ろって言ったのは……」
その力を使って、私を落ち着かせようと?
途端、あの世界から帰って来た夜のことを思い出した。あの時の叶夜君を思い出すと、辛そうに顔を歪めていた。もしかしたら……力を使うのは痛みが伴(ともな)うんじゃないかと思ったら、申し訳ない気持ちがわいてきた。