久遠の花~blood rose~【完】
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夜中に出られるよう、私は準備をしていた。とは言っても、普段どおり過ごして、部屋で迎えが来るのを待ってるだけなんだけど。
「――まだ来ない、か」
時計の針が、ちょうど十時をさす。
来るのは十一時ぐらいだから、まだ一時間も余裕がある。特にすることもないので、ベッドに寝転がりながら時間を潰していた。そうしていると……段々心地いい気分になってきて。次第に、睡魔から手招きをされ始める。
「――――ん…」
頭に、微かな重みを感じる。
何度か瞬きをして見れば、誰かがいるように見えた。
「――起こして悪いが、そろそろ」
時間だと、目の前の人物は言う。
目を擦り視界をはっきりさせれば――そこにいたのは、叶夜君。
時間なのかと時計に視線を向ければ、
「?――――!?」
もう、十一時を三十分も過ぎていた。
「ごご、ごめんなさい!」
眠ってしまったことを悔いた私は、その場で思わず正座をして頭を下げた。
「いや、そんなに謝る必要はないから」
「で、でも……約束の時間が」
「大丈夫。向こうには連絡済みだ」
叶夜君だけでなく、他の人にまで迷惑かけちゃうなんて……。
申し訳ないやら恥ずかしいやらで、私は一気に、体温が上がっていくのを感じた。
「ほ、本当にすみません」
「大丈夫。気にしなくていいから」
やわらかな声がしたと同時。頭にそっと、重みが増した。
「?……あ、あのう」
チラッと視線を上げて見れば、叶夜君はふっと、口元を緩めた。
「君は真面目過ぎる。――もう、この話は終わりだ」
返事は? と催促され、私は少し間を置いてから、頷くだけで返事を返した。
「じゃあ、そろそろ行こう。大丈夫か?」
「あ、はい。もちろん」
それを聞くなり、叶夜君は素早く私を抱え、窓の外へと身を乗り出す。
「急いで行くから、目は閉じた方がいい」
「は、はい」
返事を返すなり、私はぎゅっと目をつぶった。
途端、頬や体に、風を感じた。強く感じるそれに、すごい速さで駆けているというのが体感できる。
「――着いたぞ」
目を開けて見れば、そこは普通のマンション。周りはとても静かで、ちらほら自然がある住みやすそうな場所だった。
「ここに、私を呼んでる人が?」
「あぁ、ここの七階だ」
そう言って私を下すなり、叶夜君は手を差し出し、
「……触れても、問題無いか?」
と、少し弱い声で問いかけてきた。
今まで密着してたのに、今更って気がするけど。
「はい、問題ないですよ」
もう、叶夜君を怖いだなんて気はない。だから私は、笑顔でその手を取っていた。
「案内、お願いしますね」
そう言われるのが意外だったのか。
自分から手を差し出したにも関わらず、叶夜君は少し驚いた表情をしていた。