久遠の花~blood rose~【完】

 ◇◆◇◆◇

 夜中に出られるよう、私は準備をしていた。とは言っても、普段どおり過ごして、部屋で迎えが来るのを待ってるだけなんだけど。



 「――まだ来ない、か」



 時計の針が、ちょうど十時をさす。
 来るのは十一時ぐらいだから、まだ一時間も余裕がある。特にすることもないので、ベッドに寝転がりながら時間を潰していた。そうしていると……段々心地いい気分になってきて。次第に、睡魔から手招きをされ始める。



 「――――ん…」



 頭に、微かな重みを感じる。
 何度か瞬きをして見れば、誰かがいるように見えた。

 「――起こして悪いが、そろそろ」

 時間だと、目の前の人物は言う。
 目を擦り視界をはっきりさせれば――そこにいたのは、叶夜君。

 時間なのかと時計に視線を向ければ、

 「?――――!?」

 もう、十一時を三十分も過ぎていた。

 「ごご、ごめんなさい!」

 眠ってしまったことを悔いた私は、その場で思わず正座をして頭を下げた。

 「いや、そんなに謝る必要はないから」

 「で、でも……約束の時間が」

 「大丈夫。向こうには連絡済みだ」

 叶夜君だけでなく、他の人にまで迷惑かけちゃうなんて……。
 申し訳ないやら恥ずかしいやらで、私は一気に、体温が上がっていくのを感じた。

 「ほ、本当にすみません」

 「大丈夫。気にしなくていいから」

 やわらかな声がしたと同時。頭にそっと、重みが増した。

 「?……あ、あのう」

 チラッと視線を上げて見れば、叶夜君はふっと、口元を緩めた。

 「君は真面目過ぎる。――もう、この話は終わりだ」

 返事は? と催促され、私は少し間を置いてから、頷くだけで返事を返した。

 「じゃあ、そろそろ行こう。大丈夫か?」

 「あ、はい。もちろん」

 それを聞くなり、叶夜君は素早く私を抱え、窓の外へと身を乗り出す。

 「急いで行くから、目は閉じた方がいい」

 「は、はい」

 返事を返すなり、私はぎゅっと目をつぶった。
 途端、頬や体に、風を感じた。強く感じるそれに、すごい速さで駆けているというのが体感できる。



 「――着いたぞ」



 目を開けて見れば、そこは普通のマンション。周りはとても静かで、ちらほら自然がある住みやすそうな場所だった。

 「ここに、私を呼んでる人が?」

 「あぁ、ここの七階だ」

 そう言って私を下すなり、叶夜君は手を差し出し、

 「……触れても、問題無いか?」

 と、少し弱い声で問いかけてきた。
 今まで密着してたのに、今更って気がするけど。

 「はい、問題ないですよ」

 もう、叶夜君を怖いだなんて気はない。だから私は、笑顔でその手を取っていた。

 「案内、お願いしますね」

 そう言われるのが意外だったのか。
 自分から手を差し出したにも関わらず、叶夜君は少し驚いた表情をしていた。
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