久遠の花~blood rose~【完】

 「叶夜君? 行かないんですか?」

 しばらくして、ようやく反応を示した叶夜君。それがなんだかおかしくて、私は笑みをこぼしていた。

 「――――?」

 エレベーターに入った途端、不意に、違和感を覚えた。
 どこかで感じたことのあるような……不思議な感覚。嫌なものじゃないけど、なんだか妙に胸が騒ぐような、そんな気がした。



 「――美咲さん?」



 肩に触れられ、ようやく私は、エレベーターがもう止まっていることに気が付いた。

 「す、すみません。なんだか、緊張してるみたいで」

 「それならいいが……体が悪いなら、無理はするな」

 「はい、大丈夫ですから」

 手を引かれながら進んで行くと、一番奥の部屋で止まり、叶夜君はインターホンを鳴らす。しばらくすると、中から男の人の声が聞こえてきた。それに叶夜君が答えると、ドアがゆっくりと開いた。

 「無事に到着したようで、何よりです」

 出てきた人物を見て、私は驚いた。それは、私がよく見知った人物で、



 「先生……ですよね?」



 病院で私の担当をしてくれている、上条先生だった。
 どうして先生が? と考えていると、中に入るよう促された。ソファーに座ると、先生はいつものように、やわらかい口調で話を始めた。

 「病院ではお目にかかっていますが、こういうのは初めてですね」

 「は、はい。まさか、そのう……先生まで」

 「〝吸血鬼なのか〟ですか?」

 私の心を見透かすように、先生は聞く。

 「説明するには少し難しいですが……彼らと私とでは、根本が違うのですよ。もちろん私は、血など吸いませんので、安心して下さい」

 それを聞いて、ほっとする自分がいた。先生まで血を吸うなんて言われたら、周りにいる人全部、妖しく思えてしまいそう。

 「ところで……ミヤビはどうしたのですか? 三人で来るようにと伝えたはずですよ」

 「何も聞いてません。俺の方に連絡なんてしないと思いますが」

 「まぁ、彼にも彼の事情があるのでしょう。――では、始めましょうか」

 そう言うと、先生は奥の部屋に行ってしまった。
 なんだか雰囲気が重々しいと感じた私は、小声で叶夜君にたずねた。

 「これから、何をするんですか?」

 「美咲さんが、どの命華なのかを調べるんだ」

 「命華って、そんなに種類があるんですか?」

 「命華には二種類あって、傷を治すのが得意な者と、花を作るのが得意な者に分かれる。基本的には似たような力らしいが、簡単に言うと、前者は体の傷を。後者は体力を癒す、というのが、命華の能力だと聞いている」

 じゃあ、私は体力を治す方の命華なのかなぁ?
 私に触れたら力が回復するらしい(二人の話によると)し、自分から治した経験は無いけど、一番可能性がありそうに思えた。



 「――準備が整いましたよ」



 声をかけられ、私たちは先生と一緒に、奥の部屋へ入って行った。

 「日向さん、これを」

 そう言って先生は、私に透明な石が付いたシルバーの指輪を差し出した。

 「これを、付けるんですか?」

 「えぇ。それを、左の小指に付けて下さい」

 言われるがまま、私は指輪をはめた。透明で淡い光を放つ石はとても綺麗で、つい見惚れてしまいそうになってしまう。
< 42 / 208 >

この作品をシェア

pagetop