久遠の花~blood rose~【完】

 「――美咲さん?」

 「えっ……?」

 「どうかしたのか? 体の調子でも悪いとか」

 「い、いえ! 自分でも、うまく説明できないんですけど……なんだかこう、不思議な感じがして。嫌な感じはしないんですけど、妙に気になってしまって」

 話をしていると、前を歩いていた先生が立ち止まった。
 どうやら目的の場所に着いたらしく、先生は真剣な様子でこちらを振り向いた。

 「――日向さん」

 名前を呼ばれ、私は思わず、びくっと体が震えた。
 いつもの先生の雰囲気とは違い、どこか緊張を帯びた声に感じたから。

 「ここから、少し先に石碑があります。――わかりますか?」

 指差す方向には、確かに、小さな塊のような物が見えた。

 「ここから……一人で、あの石碑に触れて下さい」

 「!? ひ、一人で……ですか?」

 意外な言葉に、私の声は少し震えていた。
 ここから石碑まで、軽く見ても50mはあろうかという距離。
 あそこまで、一人で歩くなんて……。
 周りは深い木々に囲まれていて、いつなにが出てもおかしくない雰囲気。またあの影が出るんじゃないかという恐怖が、頷くことを戸惑わせていた。
 どう、しよう……。ここまで来て、やらないわけにはいかないだろうし。
 次第に体は震え始め、どうしたらいいものかと戸惑っていれば、



 「俺が――付き添います」



 そんな言葉が聞こえた。

 「い、いいんですか?」

 「あぁ。俺は問題無い」

 「でも、先生は一人でって……」

 「検査をするのは美咲さんだが――それぐらい、許されますよね?」

 その問いかけに、先生は険しい表情を浮かべていた。
 やっぱり……一人でやるしかないのかなぁ。



 「――リヒトさん」



 叶夜君が、先生の名前を呼ぶ。それにようやく、先生は反応を示した。

 「念の為聞きますが……貴方はまだ、発症前ですか?」

 「えぇ。薬は飲んでいますが、まだ発症前です」

 「今、どのぐらい生きていますか?」

 「正確にはわりませんが……おそらく、200ほど」

 「に、200!?」

 思わず声を出してしまうほど、私は驚いてしまった。
 人じゃないってことはわかってたつもりなのに、改めてそういう事実を聞くと、やっぱり驚きを隠すことはできなかった。

 「リヒトさん、俺も構わないですよね?」

 「…………」

 「リヒトさん」

 「…………わかりました」

 根負けしたのか、先生はようやく叶夜君の提案を受け入れた。

 「い、今更ですけど……二人で行っても、大丈夫なんですか?」

 「二人で行くことに問題はありません。ただ……行く者が“どの種族なのか”、ということが問題なだけなのですよ」

 どの種族か? 確か叶夜君って……。

 「王華だと……なにか、あるんですか?」

 覚えていたことが意外だったらしく、二人は少し驚いた表情を浮かべた。

 「まぁ、そういうことになりますね。とりあえず、今のところ問題は無さそうなので許可しますが――危険だと思ったら、キョーヤはすぐに引き返しなさい」

 真剣な眼差しを向ける先生。それを見たら、叶夜君が行くということが、いかに危険なことなのかわかった気がした。

 「危ないかもしれないのに……すみません」

 「気にしないでくれ。俺が、勝手に付いて行くんだから」

 勝手にだなんて。本当、優しすぎるよ。

 「……ありがとう」

 その気遣いに、私は小さくお礼を言った。いつもは敬語だけど、ちょっと頑張って、敬語なしで。
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