久遠の花~blood rose~【完】
「化け物っ! アイツは、化け物だ!!」
開けた場所に出ると、そこにいる人はみんな、口々にそう叫んでいた。何を見て叫んでいるのかと思えば――そこにいたのは、一人の少年だった。
もしかして、あの子を見て言ってるの?
顔はよくわからないけど、背格好からして、十歳ぐらいの子供なんじゃないかと思う。
「従わない者は――排除」
感情の無い、事務的な言葉。その言葉を発したのは少年で、手には、刀のように長い刃物が握られていた。
少年の目の前には、子供を抱きながらうずくまっている女性がいる。どうやら足をケガしたらしく、逃げることができないようだ。
「この、子はっ……この子、だけは」
「なら、従えばいい」
「っ……、そんな、こと」
「では――排除する」
その言葉を最後に、少年は躊躇することなく、手にした刃物を女性に衝き立てた。
「あ、っ……、ば、け、……ものっ!」
少年を睨みつける女性。その瞳は暗く、憎悪と呼べる色が宿っているように思えた。
どうして……こんなもの。
夢にしては、音や臭いが現実味を帯び過ぎている。その場から逃げ出したいのに、足は動いてくれない。夢のはずなのに、思いどおりにならない現状。それに私は、地団駄を踏む気持ちだった。
「――――よくもッ!」
怒りに満ちた声。その声に振り向いた少年は――心臓を、一突きにされた。
「死ね死ね死ね! 死んでしまえッ!!」
涙を流しながら、少年に刃を向けた青年。その様子から、なんとなく、今殺された女性の関係者なんじゃないかと思った。
あの子……死んじゃったの、かな。
うな垂れたままの少年。即死だったのかと思えば――青年の首が、宙を舞っていた。
「――――まだ、終われない」
胸に突き刺さる刃物を抜くと、止血もしないまま、少年は歩き始めた。
ダメ、そのままじゃ……!
死んでしまうと思ったら、今まで動かなかった体はすんなりと反応を示し、私は少年に手を伸ばしていた。
「?――気のせいか」
虚ろな目で振り向き、そんなことを言う少年。
確かに少年の肩を掴んでいるはずなのに、少年には、私のことなんて見えていないようだった。
このままじゃダメ! 治療しなきゃ!!
何度も何度も、声を大にしているのに。少年は尚も、先へと進んで行く。
本当に見えないのか。はたまた無視されているのか。
今度は抱きついてでも止めようと駆けよれば――ぐらっと、目の前が揺れた。次に足に力が入らなくなり、私はその場に膝を付いてしまった。
ま、って――!
振り絞って出した声も、届くことはなくて。少年は私から、どんどん離れて行ってしまった。
追いかけなきゃ……あの子、なんとかしないと!
止める術なんてない。何か考えがあるわけじゃないけど、ただそれだけが、私の体を動かす原動力だった。
ゆっくりと、腕に力を込める。地を這うよう進んでいけば、ようやく、少年の後ろ姿が見えてきた。
「ッ、シネェー!!」
「お前らは――排除」
そこで見たのは――殺し合い。たった一人の少年相手に、数人の大人たちが襲いかかっていた。
ある者は鎌を持ち。またある者はハンマーを手に。力の限り、それを少年に向けていた。でも、そんな攻撃をもろともせず、少年は簡単にかわしていく。そして数回会話をすると――容赦なく相手の首、腕、足などを切断していった。
「は、ははっ……オレの、、、手。オレの手、手、、、がっ!」
「っ、あ、……あぁぁああーー!」
あまりのことに笑いだす者。絶叫する者。それを見ても、少年の表情は全く変わらない。機械か人形なんじゃないかって思ってしまうほど、感情というものが皆無だった。