久遠の花~blood rose~【完】
「――――排除、終了」
小さく呟いた言葉。その言葉のとおり、目の前にいた大人たちはみな殺され――ただ、血の海が広がるだけとなった。
そんな中心に、無表情で立つ少年。
怖いのに。話しかけることなんてできないって、自分でも思ってたのに。
「――――どうして」
声が、辺りに響く。
そして今思っていることを、言葉に発していく。
「どうして……殺したの?」
涙ながらに発した、小さな言葉。聞き取れるかわからないほど小さなものだったのに、今までどんなに呼びかけても私を見なかった少年が、私の目をはっきりと見ていた。
「どうして? そんなこと、考えない」
「考えないって……」
「命令どおりにする。それだけでいい」
「そんなこと……」
命令されたから、殺したの?
命令されれば、なんでもするの?
「悪いことだって――わからないの?」
その問いに、少年は初めて表情を変えた。とは言っても、一瞬眉を動かしただけの、ちょっとした変化に過ぎない。
「――――悪い、こと」
自分に問うような、小さく発した言葉。
でも、言葉の意味を理解していないのか、何度も同じ言葉を繰り返していた。
「本当に、わからないの?」
「わからない? なにが?」
「――殺しちゃうことが、悪いことだって」
無言の少年。
どうなんだろうと答えを待っていれば、微かに首を傾げた。
……やっぱり、わからないだけなんだ。
だったら教えなきゃ。今のことが、どれだけいないことかってことを。
何とか立ち上がり、よろよろとした足取りながらも、少年に近づいた。何の反応も見せないと思えば、私が目の前で来たところで、
「邪魔者を――するな」
冷たい瞳が、私を見つめる。そして――。
「いっ?!」
左手に、痛みが走った。見れば、左の手の平が大きく、刃物で斬りつけられていた。
恐怖で足がすくみ、その場から一歩も動けない。このままここにいたら危ないってわかってるのに。また斬られるかもしれないと思っても、体はうずくまり、逃げるという行動をとってはくれなかった。
頭上に刃物を掲げる少年。
虚ろな瞳の少年は、他の大人と同様なんの躊躇もせず。
――――ひゅん。
勢いよく、私目がけ振り下ろした。
――――――――…
――――――…
―――…
「――――いやっ!」
「!? ど、どうした?」
「?――――ここ、って」
気が付けば、そこは自分の部屋。寝かされていたらしく、隣には、心配そうに私を見る叶夜君がいた。
「うなされてたが……嫌な夢でも見たのか?」
「は、はい。とても嫌なもので――?」
あれ? 何を見てたんだっけ――?
さっきまで覚えてた。体の感覚も。疲れたとか。悲しいとか。そういうことは覚えているのに……肝心の内容が、思い出せなかった。
「――忘れた、みたいです」
「嫌なものなら、早く忘れてしまうに限る。――今は、体に異常は無いか?」
「あ、はい。ちょっとすっきりしない以外、特には」
「そうか。左手の方は、きちんと手当をしてあるから。一週間もすれば、綺麗に傷跡も残らず治るようだ」
見ると、確かに左手は、綺麗に包帯で巻かれていた。
ちょっと動かし辛いけど、利き手は動かせるんだから、なんとかなるだろう。