久遠の花~blood rose~【完】

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 お昼休み。私は杏奈と食堂に来ていた。
 でも、いつも以上に食欲が無いというか。この前の夜の出来事が、頭からはなれないでいた。



 「――――美咲?」



 何度目かの呼びかけ。そこでようやく、私は呼ばれていたことに気が付いた。

 「ぼぉーっとしてたら、お昼終わっちゃうよ? 食べないの? あんなニュース見たら食べる気なくすのもわかるけど、ちょっとは食べないと」

 「――――ニュース?」

 「あれ、違った? ほら、今流れてる話」

 箸の先で、杏奈はテレビを指す。行儀が悪いなぁとは思ったけど、すると、血の海だっただろう、という言葉がちょうど耳に入った。
 ニュースの内容は、学校からも割と近い街で殺人事件が起きたというもの。被害者の証言によると、突然背後から切りつけられ、手首、足首とじわじわ切りつけられていったらしい。幸いにも大声で騒いだこともあり、近くにいた人が通報。重傷ながらも、一命は取り留めたようだ。
 余程その人に恨みがあるのかと思っていれば、〝無差別猟奇殺人か?〟とテロップが流れる。被害者は一人ではなく、重傷者二名。死亡者五名の、計七名が被害にあったらしい。
 そして死亡者の中でも三人の遺体は確認できず、地面に撒き散らされた大量の血だけを確認。他の二名の死亡者はとても無残な状態だったようで、手足がバラバラなのはもちろん、それがあちこちに捨てられているらしく、まだ全てを回収できていないとか。

 「…………大きな事件、だね」

 元々食欲がなかったけど、今の話を聞いて一層食べる気をなくしてしまった。

 「そうね。痴漢に気を付けなさい、なんて今朝先生が言ってたけど、それどころじゃないよねぇ。――美咲、一人で帰っちゃダメよ?」

 わかった? と言われ、思わず首を傾げていた。

 「最近ぼぉーっとしてること多いし。それに家の周り、意外と暗いでしょ? そーいう所って危ないんだから、一人はダメだからね!」

 「き、気をつけます……。でも、杏奈だって気を付けてよ? 確かバイト、遅くまでやってるんでしょ?」

 「大丈夫。今親戚の人が家に来ててね、その人が迎えに来てくれてるから」

 ご心配なく~と、杏奈はにこっと笑みを見せた。
 迎えに来てくれるなら、確かに私よりも安心だ。
 殺人だなんて物騒だし、迎えに来てほしいとは思うけど……さすがに、おじいちゃんに頼むのは気が引ける。とりあえず、買い物は明るいうちに済ますようにしておこう。

 「暗い顔しちゃって~。どーしたの?」

 背後から声がすると同時。両肩に手を置いたその人物は、横から顔をのぞかせる。

 「あ、顔色もちょっと悪いじゃん。ってか、それだけで足りるの?」

 現れたのは雅さん。心配してくれてるみたいだけど、相変わらずの密着具合に、私は杏奈の隣に避難した。

 「東堂くん、そーいうのやめなって。――嫌われちゃうよ?」

 学校では、雅さんは名前を東堂雅(とうどうみやび)と名乗り、イギリスとのハーフという設定にしている。
 叶夜君のように瞳の色を隠すのは大変らしく(面倒なだけにも見えるけど)、妥協案として、眼鏡の着用をするということで、本当の色で学校に来ている。おかげで、以前のように女性が群がる、なんてことは起きていない。
 ……でも、それも時間の問題のような気がするけど。背が高いってこともあってか、雅さんは色々な意味で目立つ。しかもハーフで親しみやすいというところが、徐々に人気を上げている(杏奈情報)らしい。

 「本気でイヤがってたらしないって」

 「充分イヤがってるように見えけど」

 「ほら、日本のことわざにもあるだろう? イヤよイヤよも好きのうち、ってね!」

 ……それ、違うと思うけど。
 心の中で、思わず突っ込みを入れてしまった。
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