久遠の花~blood rose~【完】



 「まずは一つ。――次は」



 何を企んでいるのか。怪しく笑いながら、ディオスは洋館へと帰って行った。
 洋館へ着くと、ディオスはいつもの席に座り、次の人物を待つ。



 「――今度は、どのような用件ですか?」



 部屋に到着するなり、少年はすぐさま用件を聞く。それにディオスは、ゆっくりとした口調で話し出した。

 「叶夜――北の外れにある洋館を覚えているか?」

 その問いかけに、少年――もとい、叶夜は頷くだけで答える。

 「あそこにいた雑華が――どうやら逃げ出したらしい」

 その言葉に、叶夜は目を見開く。あの場所にいた雑華は特に感染の進行が早く、人間を確実に襲うため隔離していた。何より、希少な女性だったからというのも、隔離する理由の一つだった。

 「それが本当なら、命華が狙われてしまう。まずは洋館へ行き、本当に雑華がいないか調べろ。――話は以上だ」

 用件を聞くと、叶夜は一礼し、素早く部屋を後にした。
 それを楽しそうに見送る、王華の長。それ以外の者たちも、嫌な笑みを浮かべながら、叶夜を見送っていた。



 「いよいよ――始まるな」



 この後の展開を想像し、ディオスは、部屋に響き渡るほどの歓喜の声を上げた。

 ◇◆◇◆◇

 薬を断って、二日目の夜。
 痛みの感覚は長く、数分だったのが数十分になり、痛みも増してきてる。

 「……、……っ!」

 次第に、声を出すのも苦しくなって。
 息をするのも、目を開けているのも――全てが、痛みに感じてしまう。



 『―――…、から』



 どこからか、声が聞こえる。
 前に聞いたことがある優しい声に、私は自然と、その声に神経を集中していた。



 『―――行くから』



 声が、はっきりと聞こえだす。それは女性の声で、大人の女性といった印象を受ける。



 『もうすぐ――行くから』



 途端、私は飛び起きた。
 嫌な感覚……何がどう嫌なのか説明できないけど、とてつもなく嫌なものが、全身を包んでいた。
 声に集中していたせいか、今は少し、痛みも和らいできていた。
 気分を変えようと、起き上がりそばの窓を少し開けた。



 「――――はぁ~…」



 大きなため息が出る。
 あとどれぐらい耐えればいいのか……次の痛みを思うと、気分が滅入ってしまう。
 ――ブー、ブー。

 「っ!?――スマ、ホ?」

 ただのスマホの音に、やけに驚いてしまった。どうやらまだ、神経が過敏になっているらしい。
 ベッド横にある机。そこに、私のスマホは置かれていた。手に取れば、先生からのメールが。見ると、【冷蔵庫にある物は、自由に食べて構いませんので】と書かれていた。
 先生も忙しいだろうに。
 気遣ってくれたことに感謝をし、ありがとうございますと返信をするなり、私はベッドに横たわった。
 また痛みがきたわけじゃないけど、上半身を起こすだけでも、結構体力を消耗してしまったらしい。
 これなら――眠れる、かも。心地いい感覚がやってくる。少しでも痛みから離れたくて、私はすぐに、その感覚に身を委ねた。
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