久遠の花~blood rose~【完】
「リヒトさん、話してないのね。それとも、まだ時期が早いのかしら?」
何か知っているのか、お姉さんは一人で納得している。
「あ、心配しないでね? リヒトさんは信用出来る人だから大丈夫よ。でも、一人で全てを抱え込むから……たまには、話を聞いてね?」
「は、はい。それはもちろん」
「きっと、リヒトさん凄く喜ぶから」
そう言うと、女性は私の両手を握り、微笑みかける。
「また、話せてよかったわ。姉としては、エルが貴方にちょっかい出してないか心配だけど……ノヴァのことも、よろしく頼むわね」
えっ、ちょっかい出すって……。
そんなの、身近に一人しかいない。頭に浮かぶのは、雅さんの姿で。
「もしかして、エルっていうのは――?」
確かめようとした途端、背後から引っ張られるようにして、目の前の景色が消えていく。手を伸ばしても、その手がお姉さんに触れることはなくて。
疑問の答えも返ってくることのないまま、なにも見えなくなった私は、ここで終わりなのだと理解した。
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幼い頃、不思議な人に出会った。
本気で俺のことを心配する、変わった女性。
期限付きとはいえ、俺は何をされても死なない。だから心配なんて必要も無いし、誰もそんなことを言う者などいなかったのに――。
初めてその人を目にしたのは、村の殲滅(せんめつ)を言い渡された時。自分の後ろには誰もいなかったはずだが、突如として、その女性は現れた。
そして俺に、どうして殺したのか、と悲しそうに聞いてきたのを今でも覚えている。
しつこい女性に、俺は命令を邪魔する者だと認識し、威嚇として切りつけた。そして次は、殺すつもりで斬りつけたというのに――そこにはもう、女性の姿は無かった。
それから何度か、女性を目にする機会があった。その度に俺は、女に刃を向け続けた。
首や腹、心臓と。切りつける度に女性はまた、姿を消してしまった。
何度目かの殺害の時。ふと、あることが頭に浮かんだ。
致命傷を与えても死なない。だとすると……自分と、同じなのではと。
途端、体が震えた。
いわゆる〝嬉しい〟という感情を知った瞬間だろう。この時から、オレは【生きる】こと。何より、【感情】というものを知っていくようになった。
次に会えたら、話してみようか。いつしか、そんなことも考えるようになった。
思えば――この時から。
紫の瞳をした彼女に、魅入られていたのかもしれない。