久遠の花~blood rose~

 「リヒトさん、話してないのね。それとも、まだ時期が早いのかしら?」

 何か知っているのか、お姉さんは一人で納得している。

 「あ、心配しないでね? リヒトさんは信用出来る人だから大丈夫よ。でも、一人で全てを抱え込むから……たまには、話を聞いてね?」

 「は、はい。それはもちろん」

 「きっと、リヒトさん凄く喜ぶから」

 そう言うと、女性は私の両手を握り、微笑みかける。

 「また、話せてよかったわ。姉としては、エルが貴方にちょっかい出してないか心配だけど……ノヴァのことも、よろしく頼むわね」

 えっ、ちょっかい出すって……。
 そんなの、身近に一人しかいない。頭に浮かぶのは、雅さんの姿で。

 「もしかして、エルっていうのは――?」

 確かめようとした途端、背後から引っ張られるようにして、目の前の景色が消えていく。手を伸ばしても、その手がお姉さんに触れることはなくて。
 疑問の答えも返ってくることのないまま、なにも見えなくなった私は、ここで終わりなのだと理解した。

 /////

 幼い頃、不思議な人に出会った。
 本気で俺のことを心配する、変わった女性。
 期限付きとはいえ、俺は何をされても死なない。だから心配なんて必要も無いし、誰もそんなことを言う者などいなかったのに――。
 初めてその人を目にしたのは、村の殲滅(せんめつ)を言い渡された時。自分の後ろには誰もいなかったはずだが、突如として、その女性は現れた。
 そして俺に、どうして殺したのか、と悲しそうに聞いてきたのを今でも覚えている。
 しつこい女性に、俺は命令を邪魔する者だと認識し、威嚇として切りつけた。そして次は、殺すつもりで斬りつけたというのに――そこにはもう、女性の姿は無かった。
 それから何度か、女性を目にする機会があった。その度に俺は、女に刃を向け続けた。
 首や腹、心臓と。切りつける度に女性はまた、姿を消してしまった。
 何度目かの殺害の時。ふと、あることが頭に浮かんだ。
 致命傷を与えても死なない。だとすると……自分と、同じなのではと。
 途端、体が震えた。
 いわゆる〝嬉しい〟という感情を知った瞬間だろう。この時から、オレは【生きる】こと。何より、【感情】というものを知っていくようになった。
 次に会えたら、話してみようか。いつしか、そんなことも考えるようになった。



 思えば――この時から。



 紫の瞳をした彼女に、魅入られていたのかもしれない。
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