久遠の花~blood rose~

 ◇◆◇◆◇



 体が……熱い。



 息苦しさを感じ、私は目を開けた。

「――? ――?」

 なにを、言ってるんだろう――?
 目の前に、なにかが見える。でも、それがなんなのかわからなくて――。何度か瞬きをしていると、ようやく、誰かがいるんだというのがわかってきた。

「美咲さん? 美咲さん?」

 この声、って――。

「きょ、や――?」

「よかった……。意識が無いから焦った。どこも異常は――っ?!」

 安堵の表情から一変。叶夜君は、驚きの表情で私を見る。

「どう、したんですか――?」

 体を起こし、たどたどしいながらも言葉を口にする。
 でも叶夜君は、なかなか反応を示してくれない。

「――叶夜、君?」

「――やはり君は」

 急に塞がれる視界。なにが起きたのかと思っていれば、



「ようやく……出会えた」



 歓喜の声と共に、体が強く抱きしめられるのを感じた。
 ようやくって……?
 病み上がりのせいか、まだ頭が働いてくれない。だから今聞こえた言葉の意味も、まだ理解できなかった。



「きょう、や、くん……い、たいっ、から」



 なんとか背中を叩き、離してほしいと頼む。何度かそれを繰り返していると、ようやく、腕に入れられた力が緩められた。

「悪い。つい、力が入ってしまって……」

「も、もう、大丈夫です。ちょっと、驚いただけですから」

 でも……急にどうしたんだろう。
 いつもと、雰囲気が違う気がする。
 まだ気にしているのかと思えば、

「――――美咲さん」

 真剣な声で、名前が呼ばれた。
 視線を向けると、怖いぐらいまっすぐな瞳が、私を見つめていた。

「これから行うことに……同意してくれ」

 突然の申し出。首を傾げる私に、叶夜君は話を続ける。

「危ないことじゃない。ただ、疲れはすると思う。――けれどこれは、必要なことなんだ」

「具体的に、なにを――?」

 すると突然、叶夜君は床に膝を付く。そしてそっと私の左手を取るなり、



「俺と――契約してほしい」



 声はしっかりしているのに。私を見つめる瞳は、どこか悲しげに見えた。

「やり方は簡単だ。君はただ、俺の言葉に同意すればいい」

「か、構いませんけど――どうして」

「これをしておく方が、後々便利なんだ。君に何かあった場合、すぐに駆けつけることができるし、君を傷つけることも出来なくなる」

 ふと、叶夜君の表情がやわらぐ。
 途端、胸が締め付けられるような、不思議な感覚に包まれた。

「それって……離れていても、助けに来れる、ってことですか?」

「それだけじゃない。俺から美咲さんを傷つけることも出来ないんだ」

 だから頼む、と叶夜君は再度言う。
 そういうことなら、断わる理由なんてない。むしろこちらからお願いしますと、私の方からお願いした。
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