久遠の花~blood rose~【完】

 ◇◆◇◆◇

 見えたのは――入り乱れる男女の姿。目を開けて飛び込んできたのは、そんな光景だった。
 また過去に来たのは明白で、それに対しての驚きは差ほどないけど……。
 目の前で繰り広げられる光景に、息をのんだ。
 そこには、一人の女性に対し、数人の男たちが襲いかかってて。周りを見れば、いくつかそういった集団があった。



『も、う――――殺し、って』



 小さく、涙ながらに発せられた女性の言葉。
 そこで行われていたのは――性行為。
 でもそれは、好きな人同士でする行為じゃない。女性の意思なんて無視した、ただの暴力でしかなかった。
 ……むせ返るような空気に、吐き気がする。そこでは、前に見た殺し合いの時とは違う、〝別の地獄〟が繰り広げられていた。
 あの時のものが力だとすると、ここにあるのは欲。己の欲望――すなわち、性欲を満たすだけの地獄が、ここには存在していた。
 女性は玩具。ただの道具だと言わんばかりに、強制的に行為は繰り返されていく。
 時々、逃げだそうとしているのか、抵抗する声が聞こえる。一際大きな声。その方向を見れば、耳から血を流す男性と、相手を睨みつける女性の姿があった。よく見れば、その人は見覚えのある顔をしていて――この世界で唯一話せる、お姉さんだった。

『っ、……はぁ、っ、、、』

 後ろに数人の少女をかばいながら、お姉さんは必死に、男性を退け続ける。殴られ、蹴られようと。自分よりも、少女たちを助けることに必死だった。

『……エメ様、だけでもっ』

『ダメ! 諦めるんじゃないの!!』

『で、ですが……っ、エメ様!!』

 隙を付いて、男性がお姉さんの長い髪を掴む。そして勢いよく、頭から地面に叩きつけた。
 苦悶の声がしたものの、お姉さんが反撃する気配はない。意識を失ってしまったのだろうか……。それをいいことに、他の男性たちは、少女にたち狙いをつけた。
 甲高(かんだか)い悲鳴。その叫びに、私の体はようやく、耳を塞ぐという行動をとっただけど視線は釘付けなまま。
 組み伏された少女の元には、男性が群がり、服を剥ぎ取っていく。



 ――――そして。



 悲痛な鳴き声と共に、少女の貞操が奪われた。
 叫ぶ声が、徐々に小さくなっていく。
 でも代わりに、甘ったるい、どろどろとむせ返る音声が、周りに木霊していた。



 ……いつまで。



 いつまで、こんな光景を見なければいけないの?
 早く目が覚めてほしいと思っても、どうしたらいいのかなんてわからない。ひたすら力いっぱい耳を塞ぎ、目を閉じ続けるしか思いつかなかった。



 ――ぎぎぎっ。



 風を感じた。するとしばらくして、誰かがそばを通るような、そんな雰囲気がした。
 もしかしたら……見えてる、の?
 恐怖にかられ、おそるおそる目を開けて見れば――スーツのような、黒一式の服装をした男性が、まっすぐお姉さん近付いて行く。どうやら、私のことは見えていないらしい。
 黒服の男性を目にするなり、お姉さんの髪を掴んでいた男性は、慌ててその場に膝を付いた。雰囲気から察して、あの人が一番偉いらしい。

『その娘は、私がもらう』

 お姉さんを抱えた男性は、そんなことを言った。

『他の女にも、しばらく手出しはするな』

『……失礼、ですが』

 何故? と、お姉さんを叩きつけた男性は聞く。

『納得できる理由を、どうか』

『――娘を、従える為だ』

 だから余計なことはするな、と冷たい眼差しを向け、男性はお姉さんと共にこの場から出て行った。
 途端、景色が揺らいだ。これで終わりなんだと、ほっと胸を撫で下ろしていれば、



『――――目を覚ませ』



 男性の声が聞こえた。
 瞬きをすれば、徐々に景色がハッキリとしていき――ベッドに横たわるお姉さんと、お姉さんに呼びかけている男性の姿が見えた。
 ……まだ、戻れないんだ。
 酷い光景でないことを願いながら、これから起きるであろう出来事に目を向けた。

『――――…』

『ようやく気が付いたか』

『っ!? い、つぁ……』

 起き上がろうとするお姉さん。でも頭に受けた衝撃が強いようで、再び、横たわってしまった。

『急に動くな。――頭を冷やせ』

 布を頭に当てようとする男性。だがその手を、お姉さんは勢いよく振り払う。そして、こんなことは屈辱だ、と睨み付けていた。
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