久遠の花~blood rose~【完】
『?――――あなた、は』
けど、それまでの雰囲気は一変。お姉さんは驚きの表情で、男性を見つめた。
『ようやく理解したか。早速だが、私と契約しろ』
『!? 何を、バカな……。王華の長が、雑華の女に契約? はっ、冗談にしては笑えない』
『まぁ聞け。これはあくまでも表向き。この体とする契約もだが――〝私との契約〟だ』
意味がわからないのか、お姉さんは首を傾げる。
体とする契約って、私が叶夜君としたのとは別なのかなぁ。
『私の体は、別な者が動かしている。普段は奴が主導権を握っておるから、こうして出ていられる時間は少ない』
『……そんな話を、信じろと?』
『それはお前の自由だ。しかし、私としては奴と契約するのは薦めぬ。まぁ、無理やりされるのが落ちだろうがな。――それほどまで、奴はお前を欲している』
真剣で、一点の曇りも無い眼差し。見つめ合ったまま、しばらく、二人は無言だった。
『――――それが本当なら』
そっと、お姉さんの片手が上がる。男性の頬にゆっくりと触れ、これが現実なのか確かめるように、もう片方の手も、頬に触れる。
『助けたのは――貴方?』
戸惑う声。
それに男性は、お姉さんの手に触れながら、しっかりと頷いて見せた。
『たまたま、だがな。――――話を聞いてくれるか?』
頷くお姉さん。それに男性は、自分の頬にある手を離し、そっと両手を握った。
『奴はこれから、とある人物との子をつくるつもりだ。今まで人工的にやってきたが、それでは上手くいかなくてな。そこで考えたのが、母体を使うこと。だが王華の女では駄目だった。人も試したが、それも失敗に終わった』
!? それ、って……。
途端、洋館での光景が頭に過った。
『雑華を使うことには、当初抵抗があった。しかし――古い血筋である、お前の存在を知った。だから奴は、お前の体を欲している。断れば、地下にいる女は襲われるだろう。今は手を出すなと命令したが……』
私も、長くはいられないからな、と男性は苦笑いを浮かべる。
『だから本式の契約を、私と交わしておけ。そうすれば――』
言葉に詰まる男性。表情を見れば、どこか辛そうな様子に見える。
言いたいことがわかったのか。お姉さんはありがとう、と笑顔を見せた。
『貴方がそこまで考えてくれただけで――私は、救われる』
そして、とても嬉しそうに、男性を見つめていた。
『――では、早く済ませましょう』
そう言って、お姉さんは男性の腰にある短剣を抜く。そして躊躇なく、自分の手の平を切りつけた。短剣を返すと、同じように、男性も手の平を切りつける。
『我真名は――レフィナド』
傷付いた手を、男性はお姉さんの口元に近付ける。
『我真名は――エメ・スウェーテ』
お姉さんも同じように、自分の手の平を男性に近付ける。
『『我らは、血の契約を交わす』』
同時に言葉を唱えると、二人は互いの血を口にする。――そして。
『我名の意味は、洗練されし者』
『我名の意味は、愛を願う者』
厳かな雰囲気で進む契約。
そんな中、男性は徐々に顔を歪めていく。心配するお姉さんに、時間が無いと告げ、契約を済ませることを優先させた。
『『今、この時より――この身は、彼の者と永久(とわ)に』』
その言葉を最後に、二人はそっと、口付けを交わした。
『――――間に合った、か』
苦笑いを浮かべると、男性は、肩で大きく息をしていた。
『悪い、な……もう。私っ、は』
『分かってます。分かってますから……』
涙が、頬を伝っていく。溢れ出る涙をぬぐうと、お姉さんは男性に抱き付いた。
『これで私も……耐えることが、出来ます』
『ははっ……それはよかっ、たな』
しばらく息が荒かった男性が、徐々に落ち着きを取り戻していく。