憎き上司の子を懐妊したのち、引くほど溺愛されている件について。
嫌いな上司
いつもと変わらない仕事。メイン業務である伝票入力を中心に、パソコンと向き合う毎日。
…だったはずなのに。
突然訪れた、非日常的な出来事。
それは、炊事場でコーヒーを淹れようとした時に起こった。
「なぁ、お前。俺の子、孕んでみる気はないか?」
「………」
セクハラ…、パワハラ…?
…多分、違う。
適切な言葉が思いつかない。
手の力が抜け、持っていたお気に入りのマグカップが床に落ちた。
パリンッと小さく音を立てるマグカップ。
それには目もくれず、私はただただ目の前の人を眺めた。
「…………え?」
「沢城羽月。俺のことが憎くて嫌いなお前に、俺の子を孕ませたい」
「…………」
…意味が分からなすぎて、私の中から考える力が1つ残らず消え去り、何となく…下を向く。
急に手放されたマグカップは、無惨にも床で粉々になっていた。
「ば…馬鹿にしないで下さい。大体、貴方も私のことが嫌いでしょう。いくら部長とは言え、言っていい事と悪い事があります」
「嫌いだけど、お前を孕ませたい。それ以外に何か必要か?」
「………」
この人が何を言っているのか、全く分からない。
話にならなくて頭が痛くなってくる。
それ以外というか……何もかも足りませんけど。
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