憎き上司の子を懐妊したのち、引くほど溺愛されている件について。

嫌いな上司



いつもと変わらない仕事。メイン業務である伝票入力を中心に、パソコンと向き合う毎日。

…だったはずなのに。
突然訪れた、非日常的な出来事。

それは、炊事場でコーヒーを淹れようとした時に起こった。


「なぁ、お前。俺の子、孕んでみる気はないか?」
「………」


セクハラ…、パワハラ…?
…多分、違う。

適切な言葉が思いつかない。

手の力が抜け、持っていたお気に入りのマグカップが床に落ちた。

パリンッと小さく音を立てるマグカップ。
それには目もくれず、私はただただ目の前の人を眺めた。


「…………え?」
沢城(さわしろ)羽月(はづき)。俺のことが憎くて嫌いなお前に、俺の子を孕ませたい」
「…………」


…意味が分からなすぎて、私の中から考える力が1つ残らず消え去り、何となく…下を向く。

急に手放されたマグカップは、無惨にも床で粉々になっていた。


「ば…馬鹿にしないで下さい。大体、貴方も私のことが嫌いでしょう。いくら部長とは言え、言っていい事と悪い事があります」
「嫌いだけど、お前を孕ませたい。それ以外に何か必要か?」
「………」


この人が何を言っているのか、全く分からない。
話にならなくて頭が痛くなってくる。

それ以外というか……何もかも足りませんけど。



< 1 / 31 >

この作品をシェア

pagetop