憎き上司の子を懐妊したのち、引くほど溺愛されている件について。


…やっぱり、結城さん嫌いだ………。



そう思いながら大きく溜息をつくと、突然結城さんに抱き締められた。



「え!?」
「…沢城……好き」
「は!?」


私のことが嫌いだと言っていた結城さんが…好きって?
…言っている意味が分からなくて、頭も身体も固まる。

ぎゅう…っと、お腹を圧迫しないように…でも力強く抱き締めてくる結城さんの腕。

私のものではない早くて大きな鼓動が、また響き聞こえて来る。



「沢城、妊娠したこと…教えてくれよ…。嬉しい、ありがとう、好き。大好き…」
「…………」



わっからない……。
え、結城さんのことが本当に、全く分からない。

私はなんでお礼言われているの?


「え、待って…結城さん…。私のことが嫌いでしょう。何言っているのですか」
「………」
「結城さん!」
「………」


私を抱き締めたまま固まっている結城さん。

暫く無言が続いたのち、小声で言葉を発した。



「…俺、昔からずっと…沢城のことが好きだった」
「……………は?」
「俺さ。昔から、好きになればなるほど…相手に嫌われたくなるんだ。それで、わざと…沢城に嫌われるようなことをした。残業は、俺が沢城と2人で過ごす為の口実。嫌われた上での2人きりの空間が…好きだった…」
「…………」
「これまでの女性は、そこで止まっていた。俺の望み通り相手に嫌われて、だけどそこから行動ができなくて…そのまま自然消滅。相手に嫌われているから、関係修復もできなかったんだ。…けれど、沢城。お前のことは…どうしても手放したくなくて、そんな思いでいっぱいになって…。だから、孕ませたいと…迫らせてもらった」
「………」


す……すっごい真剣な表情で、とんでもない事実を教えてくれるのは良いんだけど…。

何をどう考えても、何一つ理解できない。
意味不明にも程がある。




しかし…やっぱりそうだったんだ。

『嫌い』『憎い』と言うと反応していた結城さんの身体。
苦しそうな表情。


やっぱり…。
そういう性癖の持ち主だった。


「…嫌ってくれてありがとう。最高だった…」
「………」
「そして、妊娠してくれてありがとう…結婚しよう…」
「……………は?」
「好きだ、ずっと好きだった…沢城。沢城、沢城……好き、大好き……」
「…………………」


いや、怖いな。


急展開すぎて、衝撃が大きい。
結城さんが話してくれた内容と、この現状が本当に何一つ理解できない。

少しだけ顔を動かして、結城さんの顔を見る。
真剣な眼差し…だけど、少しだけ潤んでいるその目。

溢れそうな涙を堪えている様子に…私はまた視線を逸らした。


「…………」
「沢城…愛してる。好きだ、好き。結婚しよう。お前も子供も…俺が一生かけて大切に守る」
「………………」


意味不明すぎて。

衝撃が大きすぎて。

何度も言うけれど、やっぱり何一つ理解できなくて。




「……沢城?」




抱き締められている結城さんの腕の中で、私はまた…意識を失った。





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