憎き上司の子を懐妊したのち、引くほど溺愛されている件について。


再度意識を失ってから回復した私は、3日ほど入院したのち退院した。
そして更に2日休んで…久しぶりの出勤。


私が妊娠していることはまだ知られていないようで。
他の経理部員はみんな普通だった。


「あ、沢城さんおはようございます! 体調は良くなりましたか?」
「おはようございます。休んで申し訳ございません。ご迷惑をお掛けしました。お陰で回復しました」
「良かったです。迷惑なんてありませんから、無理だけはされないで下さい」
「ありがとうございます」


優しい経理部員。

ホッとしながら自分のデスクに荷物を置いて、書類箱を覗く。

「……」

山盛りになっている書類。
『沢城が居ないから代わりにやっておこう』という概念はこの部署に無い。

私が居なければ、そのまま。

5日も会社を休んでいたのに。
書類はそのまま。

それは…まぁ、迷惑なんて無いよね。


「……」


誰にも聞こえないように、小さく溜息をついた。



まだどうするか決めていないけれど。
産休か、退職か。

どちらにせよ、この経理部には心配しか無いな…。



「…あ、沢城。おはよう」
「………おはようございます」


これは、これは。
変な性癖持ちのエリート部長、結城さ………おっと、声に出そうだった。


結城さん。

実は入院期間中、毎日お見舞いに来てくれた。
そしてその後の有給中も、差し入れを持って行きたいという“口実”で、家まで来てくれていた。

来なくて良いのに…。
そんな本心は…胸の奥底へ。


「沢城…無理はするなよ。何かあれば直ぐに言うこと。隠すなよ」
「………」
「返事が無い」
「…はい」


不満すぎて思わず唇を尖らせると、それを見た結城さんは噴き出すように笑い始めた。

口元に手を添え、クックックと笑う姿にまた嫌悪感が募る。
私は同時に湧き上がる苛立ちの感情を抑えながら、始業の準備を始めた。



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