憎き上司の子を懐妊したのち、引くほど溺愛されている件について。


今日も変わらず残業。
また『今日中』の仕事を振られた。

妊婦にも容赦ない。
まぁ…丁寧に優しく扱って欲しいとか思っていないから…別に良いけれど。


「沢城…。無理だけはさせたくない。出来る限りでいいから」
「………」


それ、定時間際に『今日中』の仕事を振る人の台詞?
そう思うなら、せめてもう少し早く言ってくれたら良いのに。


「…沢城は仕事が早くて確実だから。ついお前に頼んでしまう。ただ、何度も言うけれど無理だけはさせたくない」
「……なら、早く仕事を振って下さい。残業しなくて良いように。全体の仕事量を見て就業時間内に済ませられるよう、調整しますから」
「………ごめん、沢城」
「?」
「…前も言ったけど、残業は、俺が沢城と2人で過ごす為の口実だから…」
「…………」


頭に来た。


手に持っていたペンを勢いよくデスクに置き、椅子から立ち上がる。
そして急いで荷物を片付けて、鞄に詰めた。


確かに、その話は前にも聞いた。
けれど…やっぱり耐えられない。

無理だよ、無理。
そんなの。結城さんの身勝手な行動に、私まで巻き込まれているだけじゃない。



「無理です、結城さん。『今日中』って言いながら、出来る限りで良いという矛盾。2人で居たいという身勝手な思いによる巻き込み。…結城さん。エリートなどと言われていますけれど。結城さん自身は…大したこと無いですよね。…本当に、嫌い。大嫌いです」
「さ、沢城…」
「もう勘弁して下さい。お腹の子は結城さんとの間に授かった子供で間違いありませんが、私は結城さんと結婚なんて考えられません。けれど子供を堕ろすつもりもありません。1人で産み育てます」


結城さんの顔を睨みつけて、力強く言葉を発する。

エリートと呼ばれる人がおどおどしているなんて…。
そんな様子に…ただただ呆れる。


「沢城、待て。早まるな。俺はお前のことが好きで……」
「結城さん。私は貴方のことが大嫌いです」
「………沢城…」
「その変な性癖、別に咎めるつもりはありませんけど。“好きな人”と結婚までしたいなら、考え直した方が宜しいかと思います」
「………」

酷く落ち込んでしまった、結城さん。
俯き、黙り込んだ彼を横目に、私は鞄を持って足早にオフィスを後にした。

…良く言った、私。

このくらい強気じゃないと、結城さんには伝わらないだろうし。
これに懲りたら…もう必要以上に関わって来ないだろう。







…そう、思いたかった。





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