憎き上司の子を懐妊したのち、引くほど溺愛されている件について。

手のひら返し



「………………」
「あ、沢城さん…。デスクに…」
「………どういうこと?」


朝、会社に出社すると、私のデスクに赤い薔薇が3輪ほど置かれていた。
その薔薇は花束のようにフィルムが施され、ピンクのリボンが巻かれている。


「これ、どなたが置いたものですか?」
「…あ…それが……」
「……?」


何だか言いにくそうに目を伏せる同僚。

首を傾げて「ん?」と声を上げると同時にオフィスの扉が開き、結城さんが入って来た。


「あ、沢城。おはよ」
「…おはようございます」
「それ、俺からのプレゼント。今日も頑張ろうな、沢城」
「…………」


徐々に湧き上がってくる…怒り……。

やっぱり意味不明すぎる。

薔薇って!!
仮にご機嫌取りだとしても、これではないでしょう!!


私は薔薇を手に取り、無言で炊事場に行った。
そして棚から花瓶を出して、水を入れて、薔薇を入れて…デスクの空いたスペースにドンッと置く。


「むかつく!! 結城さん、意味が分かりませんし、何よりウザイです!!!」
「…そう言いながら、自分のデスクに飾ってくれるんだな」


クシャッと、子供のような笑顔を浮かべる結城さん。
その表情にまた怒りが加速する……。


「結城さんのことは嫌いですけど、薔薇には罪がありませんからねっ!!」
「…沢城のそういうところ、昔から大好き」
「止めて下さい! 私は、大っ嫌いです」


そう言い放って始業の準備を始める。
結城さんは口元に手を添えて微笑み続け、オフィスに居た経理部員は驚いたような、不思議そうな…そんな表情をしてお互い顔を見合っていた。



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