憎き上司の子を懐妊したのち、引くほど溺愛されている件について。


「沢城、体調は大丈夫か。椅子に座るのがしんどくなったら、こっちのソファで少し休みなよ」

「これ飲める? 野菜ジュースを買ってきたんだ。飲めるなら飲んでみて」

「沢城」

「沢城、好きだ」

「沢城、愛してる。大好き」





「………………」






必要以上に私と関わり、物凄く気にかけてくれている結城さん。





以前とは比べ物にならないくらい態度が急変し……。


思わず引くほど、私のことを溺愛し始めた……。









「…結城さん」
「ん?」
「……最近の結城さん、以前よりも必死さが増していて痛いです。そして態度の変化についていけません」
「……」




結局、退職を認めてもらった。


産休か退職かで仕事の引き継ぎ方が変わる。
その為、どうするかを早目に決めなくてはいけなかったから…。




渋々、結城さんが折れたのだが、多分その頃から…必死さが増した。





「…沢城。どうやったら好きになってもらえる?」
「……さぁ」
「お願いだよ、沢城」
「…………」



俯き、瞳を潤ませながら身体を小さく震わせている結城さん。


これが、“エリート”と呼ばれている次期役員候補の経理部長、結城修吾の本当の姿。




笑えてくるよ、本当に。





だけど、いつまでもこのままで居るわけにもいかない…。


そう思い始めていた私は、結城さんにある提案をする。





「…結城さん。今日の夜、少しお話しませんか。…決着を付けましょう」
「……結婚してくれるって話?」
「いえ、養育費の話です」
「さ…沢城…!!!!」



潤んでいた瞳から溢れ出す大量の涙。
それには目もくれず、私はオフィスに戻った。





養育費の話は、冗談。





……今日、2人で話して。

結城さんの『本気』を再確認して。

これまでの行動を謝罪してもらって。

子供のことを想い、私が憎くて大嫌いな結城さんを『受け入れても良い』と思えたならば……。





その時は———…………。







< 28 / 31 >

この作品をシェア

pagetop