憎き上司の子を懐妊したのち、引くほど溺愛されている件について。



目を真っ赤にして泣いている“次期役員候補のエリート経理部長”。


複雑なその光景に…これ以上拒否し続けるのも可哀想な気がし始めていた。



……単純な、自分。



「沢城、本当に今更かもしれない。全て俺が起こした行動で、沢城を傷付け…人生を変えさせ、本当に全て俺の責任で…申し訳なくて…。でも、沢城のお腹に俺との子がいることが何よりも嬉しくて…どうしようもない。好きなんだ、大好きなんだ…沢城…。人生を懸けてお前も子供も愛したいし、守りたい」

「これがラストチャンスだというのなら、俺は今日、何度でも沢城に伝える。俺と結婚しても後悔なんてさせない。絶対に、させない。幸せにするって、神にも仏にも、天にも誓うから。どうか、こんな俺だけど…受け入れてくれませんか。結婚してくれませんか」

「…ただでもやっぱり…、たまには憎くて大嫌いって…罵って下さい…」



言葉が消えると同時に俯いた。
結城さんは私の方を向かずに、無言で涙を零し続けている。



「…………結城さん、最後の言葉はマイナスです」
「……」
「でも、分かりました」
「……」
「結城さんの言葉、受け取りました。…結城さんを信じて、結婚を受け入れます」
「…本当に?」



また、多くの涙を零し始めた。

そんな結城さんを横目に私は立ち上がり、彼の正面に立つ。
そして、ハンカチで顔を拭い…両手で結城さんの両頬に触れた。


「…憎くて大嫌いな結城さんでしたけれど、結城さんにキスされて…抱かれて…好きだった頃を思い出し、身体が疼いて、キスに気持ち良さを感じていたのは…事実でしたから」
「えっ?」



目をまん丸に見開き、固まった結城さん。
けれど私は、そんな表情と漏れ出た言葉をスルーして…。







結城さんの唇に、そっとキスをした。





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