憎き上司の子を懐妊したのち、引くほど溺愛されている件について。


真剣な眼差しで、再度私の顔を見つめてくる結城さん。
何でそんなに本気なの?


「え、何ですか。結城さん、私のこと嫌いでしょう?」
「あぁ、嫌いだな」
「私も嫌いです。嫌いな人に孕ませたいって何ですか。大体、抱くって何ですか」
「それは言葉の意味通り。お前を抱いて孕ませたい」
「……」


こ…この人、本当にヤバいんですけど…。


話にならないし。
今日は帰ろう。


そう思い、デスクの上を片付けて帰り支度をする。


…私だって別に処女ではないし。
”何を” したら『孕む』のか、結城さんの言う『抱いて孕ませたい』の意味も、当然だが良く分かっている。


「……」


怖い、怖すぎる。この人。


恐怖で震える体を抑えながら「お先に失礼します」と結城さんの顔を見ずにオフィスから出ようとすると、その動きを背後から阻止された。

力強く抱き締められ、思わず手から放してしまった鞄が落下する。


「…何ですか、本当に」


じわじわと私の中に湧き上がる嫌悪感。
憎くて嫌いな結城さんの腕から、どうにかして抜け出そうとするも…力が強すぎて抜けられないのがもどかしい。


「…結城さん、いい加減にして下さい」
「……」


無言のまま何も言わない結城さん。
そんな彼がどんな表情をしているのかは見えないけれど、密着している背中からは、私の物ではない早くて大きな鼓動が響き聞こえて来る。


「抱かせて」
「嫌です」
「孕ませたい」
「絶対、嫌です」


頭おかしいでしょ…本気で…。
身を捩って抜け出そうとするも、やっぱり抜けられない。

力強い腕に閉じ込められたまま、どうすることもできなかった。


「帰ります」
「帰さない」
「帰ります」
「帰さないっ!!」


その言葉と共に私の身体を回転させ、そのままの勢いでキスされた。

勢いあまって歯がぶつかり合い少し痛んだ。
けれど結城さんはそれを気にせず、キスを続ける。


「…ゆ……っ」


不快…不快すぎる。

嫌いな人にされるキス。
これほどの嫌悪感を過去に抱いたこともない。


「……結城さっ……」


結城さんの身体を全力で押してみる。
だけど私がどれだけ力を振り絞ってもびくともしなくて悔しさを覚えた。


「沢城……っ」


キスの合間に発せられる結城さんの謎の甘い声。
その声を聞くと何故だか物凄く悔しさを感じる。


…大体、嫌いな人にキスする…?


私の感覚では本当に有り得ない。


ここまでの結城さんの行動全てが全く理解できなくて。
なのに、嫌悪感でいっぱいだったはずの私自身も、繰り返されるキスにより徐々に気持ち良さを覚え始めて。


それがまた悔しくて。
憎くて。
大嫌いで。


抑えきれない涙が、止め処なく溢れ出た。



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