天使と悪魔の学園へ、ようこそ! ~男装地味子の絶対バレてはいけないヒミツ♥~
「っ……お願いします……! 密告しないでください……っ! うち、貧乏で、弟もまだ小さくて……、家族と自分のためにいま学園をやめるわけにいかないんです……っ!」

 気付いたら、涙ぐずぐずで彼に訴えていた。

 こんなこと言ったって、私も門松さんのときみたいにみんなの前でつるし上げられるに決まってる。

 そう思ったのに

「泣くな」

 私に両目を隠されたまま、そう言って晩くんは自分のジャージを脱ぎ始めた。
 そして、手探りで、それを私の肩に掛ける。

「うぐ、晩くん……?」

 汚い泣き方で、彼のことを見つめる。
 どういうこと……?

「着ろ」

 それだけ言って、彼は自分から私に後ろを向かせた。
 くるりと後ろを向く視界。

 私は言われた通り、急いで晩くんのジャージを着て前をちゃんと閉めて……

「……っ?」

 ぎゅっと後ろから晩くんに抱きしめられた。

「お前が男でもいい。……お前の秘密、俺が絶対に守ってやる。だから、俺のそばに居ろ」

 いつも冷たいのに、耳元で囁く晩くんの声はあたたかくて優しかった。

「へ?」

 思わず、間抜けな声がもれる。

 女だってことはバレてない……? 
 でも、いま、晩くん、なんて言った? 
 俺のそばに居ろ? 
 なんだろう、これ、なんか、ドキドキする。
 私の心臓、壊れちゃったかも……。

「泣き止んだのか?」

 またぐるりと回されて

「はひ」

 正面から両方のほっぺたをつままれる。
 もう優しくない、不機嫌そうな顔。

「へんな顔したままあいつらのところに戻れないからな」

 そう言って、晩くんは懐中電灯で道を照らしながら先を歩き始めた。

「置いてかないでください……!」

 私も慌てて彼の後を追いかける。

 ねえ、晩くん、さっき、どんな顔してたんですか?

 ――神様、なんだか、私の心臓が変です。
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