全盲の御曹司は契約バディを妻にしたい
第1話 全盲の御曹司
私が創界社という大手出版社に中途で採用されてから2度目の夏。
新卒で就職した職場でも営業部に配属されていたため、大まかな仕事は一通り理解していた。
それでも、29歳の私は営業職としてまだまだ至らぬ点があり、先輩はもちろん、同年代、後輩からも学ぶことは多いと思っている。
昨年は中途採用とはいえ創界社の社員としては新人だったこともあり、雑務をこなしながら仕事を覚えていった。
今ではすべての仕事が一応は先輩の確認をもらいながらではあっても、基本的にひとりでできるようになり、昨年と比べて成長を感じている頃である。
「こちら、ご注文の品です。生ものですので、本日中にお召し上がりください」
「はい、ありがとうございます!」
私は店員さんから箱に詰められた生クリーム大福を受け取る。
和菓子屋・鏡華庵の生クリーム大福は私も食べたいところであるが、これは午後からの来客のために用意されたものだ。
昼休憩の後にそのまま受け取り、会社に戻って今日の来客との打ち合わせ担当者である上司に渡す……おつかいみたいだと思いながら、こうした業務外の仕事にも意味を見出して素直に仕事をこなす。それが私のモットーだ。
ただいま13時。
14時半からの来客には間に合うだろう。
私は鏡華庵から出て、駅に向かう。
夏の暑さは地元に比べると苦しいものだが、耐えるしかない。
保冷バッグに入れた大福を大事にしながら日陰を見つけながら駅前まで歩いていく。
駅舎が見えてきて、手に持っていた保冷バッグを抱えて足早に中に入ろうとした時である。
「あれ、あの人……大丈夫かな」
1人の男性が地面に座り込んで手探りで何かを探していた。
眼鏡をかけたスーツの男性。ブライトネイビーのスーツとえんじ色のネクタイを締めている。
そんな彼は短髪をオールバックにした爽やかで清潔感のある髪型でスタイリッシュな印象があった。
「あの」
考えるよりも先に声をかけていた。
どこかで見たこともあるような見た目の彼。
誰かは知らないけれど、困っている人が目の前にいたのだから声をかけなくてはいけないと反射的に声をかけてしまうのだ。
それはきっと、大学生時代に福祉ボランティアサークルで活動していたからというのもあるだろうけど。
「ああ、すみません。白杖……細長い棒みたいなもの、近くに落ちてませんか」
「白杖……あ、はい、ありました!」
彼が探していた物は白杖だった。
4歩分ほど離れた場所に転がっていて、誰も拾ってあげないというのも冷たい世の中だな、と呆れながらも声をかけて渡す。
「ありがとうございます。助かった。歩いていたら横から走ってきた方に蹴られてしまったんだけど、なかなか探せないでいたから本当に助かりました」
「ああ、いえいえ。お互い様ですから。では、これで!」
私はそう言って立ち上がろうとすると、後ろから声が聞こえる。
「ああっ! やっと見つけましたよ徹さん……」
「宮田。ちょうどいいところに来たな。今、彼女に助けられたところなんだ」
急いで走ってきた彼は、息を切らしながら眼鏡をくいっとあげて呼吸を整えて私の方を見る。
「うちの上司がご迷惑をおかけしたようで……大変申し訳ございません。何かお礼をさせていただきたいのですが……」
「いえ! そんなお礼だなんて。私は当然のことをしたまでですから。それでは私はこれで……」
お礼と言われても何も特別なことはしていないし大げさだ。
それに、早くこの大福を持っていかなければならないと思うと大事にすることなく会社に戻りたかった。
私は宮田さんと徹さんと呼ばれる男性に向かって一礼して背を向けた。
私がいなくても、宮田さんがいるならもう大丈夫だろうと判断して、私はホームに向かい、会社へと戻った。
新卒で就職した職場でも営業部に配属されていたため、大まかな仕事は一通り理解していた。
それでも、29歳の私は営業職としてまだまだ至らぬ点があり、先輩はもちろん、同年代、後輩からも学ぶことは多いと思っている。
昨年は中途採用とはいえ創界社の社員としては新人だったこともあり、雑務をこなしながら仕事を覚えていった。
今ではすべての仕事が一応は先輩の確認をもらいながらではあっても、基本的にひとりでできるようになり、昨年と比べて成長を感じている頃である。
「こちら、ご注文の品です。生ものですので、本日中にお召し上がりください」
「はい、ありがとうございます!」
私は店員さんから箱に詰められた生クリーム大福を受け取る。
和菓子屋・鏡華庵の生クリーム大福は私も食べたいところであるが、これは午後からの来客のために用意されたものだ。
昼休憩の後にそのまま受け取り、会社に戻って今日の来客との打ち合わせ担当者である上司に渡す……おつかいみたいだと思いながら、こうした業務外の仕事にも意味を見出して素直に仕事をこなす。それが私のモットーだ。
ただいま13時。
14時半からの来客には間に合うだろう。
私は鏡華庵から出て、駅に向かう。
夏の暑さは地元に比べると苦しいものだが、耐えるしかない。
保冷バッグに入れた大福を大事にしながら日陰を見つけながら駅前まで歩いていく。
駅舎が見えてきて、手に持っていた保冷バッグを抱えて足早に中に入ろうとした時である。
「あれ、あの人……大丈夫かな」
1人の男性が地面に座り込んで手探りで何かを探していた。
眼鏡をかけたスーツの男性。ブライトネイビーのスーツとえんじ色のネクタイを締めている。
そんな彼は短髪をオールバックにした爽やかで清潔感のある髪型でスタイリッシュな印象があった。
「あの」
考えるよりも先に声をかけていた。
どこかで見たこともあるような見た目の彼。
誰かは知らないけれど、困っている人が目の前にいたのだから声をかけなくてはいけないと反射的に声をかけてしまうのだ。
それはきっと、大学生時代に福祉ボランティアサークルで活動していたからというのもあるだろうけど。
「ああ、すみません。白杖……細長い棒みたいなもの、近くに落ちてませんか」
「白杖……あ、はい、ありました!」
彼が探していた物は白杖だった。
4歩分ほど離れた場所に転がっていて、誰も拾ってあげないというのも冷たい世の中だな、と呆れながらも声をかけて渡す。
「ありがとうございます。助かった。歩いていたら横から走ってきた方に蹴られてしまったんだけど、なかなか探せないでいたから本当に助かりました」
「ああ、いえいえ。お互い様ですから。では、これで!」
私はそう言って立ち上がろうとすると、後ろから声が聞こえる。
「ああっ! やっと見つけましたよ徹さん……」
「宮田。ちょうどいいところに来たな。今、彼女に助けられたところなんだ」
急いで走ってきた彼は、息を切らしながら眼鏡をくいっとあげて呼吸を整えて私の方を見る。
「うちの上司がご迷惑をおかけしたようで……大変申し訳ございません。何かお礼をさせていただきたいのですが……」
「いえ! そんなお礼だなんて。私は当然のことをしたまでですから。それでは私はこれで……」
お礼と言われても何も特別なことはしていないし大げさだ。
それに、早くこの大福を持っていかなければならないと思うと大事にすることなく会社に戻りたかった。
私は宮田さんと徹さんと呼ばれる男性に向かって一礼して背を向けた。
私がいなくても、宮田さんがいるならもう大丈夫だろうと判断して、私はホームに向かい、会社へと戻った。
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