全盲の御曹司は契約バディを妻にしたい
「輝」
「はい。……えっ」
西条さんは私の下の名前を呼ぶ。
その声はいつもより低くて、少しだけ太い気がする。
「俺に無断で辞めようとしていたそうだな」
「それはその……」
スマートフォンをテーブルに置くと、西条さんは私に寄ってくる。じりじりと距離を縮められ、私は壁に追い込まれてしまう。
「俺は君の姿を想像することしかできない。ただわかるのは、声と、息遣い。匂いと歩く音。視覚以外の全てを使って、君という人と好きになった。外見、学歴、地位や名誉……そんなことはどうだっていい。ただ俺は、渡辺輝という女性が好きなんだ」
西条さんは私の髪の毛にキスを落として、指で掬う。
その指先が徐々に降りてきて、耳たぶや首筋に触れる。
「ほら、こんなにも可愛いのに」
西条さんの甘く低い声で囁かれ、ぽっ、と私の体温が上昇して、息ができない。
「私は……西条さんに相応しくないですから……」
「それを決めるのは俺だろ?」
ねっとりとした手つきで私の腰を抱く。その手は、今まで仕事中に触れていた手とはまるで違う。情熱的で、本能に訴えるような誘惑するような男の人の手だ。
「あの、西条さんっ、困ります……」
いつも付けていたアイカメラは知らぬ間に外されていて、眼鏡も何もつけていないその表情。
家で過ごしている時、いつも見ていたはずなのに。レンズを通さないその瞳が、私だけを映しているのがはっきりと見えてしまって恥ずかしくなる。
「俺を散々困らせたんだ。たまには俺が困らせたっていいだろう」
「西条さん……」
首筋に唇が軽く触れる。
ちゅ、と音がすると、恥ずかしさで縮こまりたくなってしまう。
「徹って、呼んで」
普段はふんわりと香る彼の優しいベルガモットの香りが、今は濃く残る。
「徹さんっ」
「うん」
満足そうに徹さんが返事をすると、私の唇に彼の唇が重なる。
「んっ、ま、まっ、て」
「待たない」
重なる唇は角度を変えて、互いに求め合う。
壁に寄りかかったままの私を逃がす気などない。ゆっくりと、咥内の熱を絡め合えば、柔らかな心地好さにうっとりとしてしまう。
優しい口づけが少しずつ私の心を融かしていく。いつか私が思い描いていたことが起こっている。私はもう、自分に正直になっていいのだろうか。
やがて唇が離れて、見つめ合う。
「お前が離れてしまうのがたまらなく不安だった。もう離さない」
徹さんは私を埋めるように背中に腕をまわしてもう片方の手で後頭部も抱きしめる。
熱く強い抱擁に、思わず私は涙が流れてしまう。ぼろぼろと大粒の涙がとめどなく流れ落ちてくる。
「私だって、離れたくなかったです。でも……でも、私じゃあなたの隣は相応しくないって思って、それで」
今まで隠していた本音。
私は西条さんが、徹さんが好きだった。かけがえのない私の光。この人がいるだけで、この人の傍にいるだけで、幸せになれる。一緒にいたいと思える人だから。
「俺はこれからもずっと輝と一緒にいたい。妻にしたい。ずっと前からそう思っていた。君は俺の心を優しく照らしてくれる光だった。君がいるから、もっと頑張ろうと思えたんだ」
「徹さん……私、徹さんのことが好きなんです。愛しています。だから、この契約が終わったら終わる関係だなんて嫌……っ!」
心の底から叫んでみた。私のありのままを。そうすると、徹さんは私の頭を撫でて抱きしめていた腕を緩める。
「ようやく本音を言ってくれたね。真っ直ぐだ」
「はい……!」
笑い合う私たち。
こんな幸せなことがあっていいのだろうか。心が通じ合って、徹さんの愛が流れるように伝わってくる。
「輝」
「はい」
「この先に進んでしまっても、いいだろうか」
「……はい」
私が返事をすると、徹さんと私は徹さんの部屋に移動した。
そのまま雪崩れ込むように大きなベッドに押し倒されて、その先に進むことを許した。
「はい。……えっ」
西条さんは私の下の名前を呼ぶ。
その声はいつもより低くて、少しだけ太い気がする。
「俺に無断で辞めようとしていたそうだな」
「それはその……」
スマートフォンをテーブルに置くと、西条さんは私に寄ってくる。じりじりと距離を縮められ、私は壁に追い込まれてしまう。
「俺は君の姿を想像することしかできない。ただわかるのは、声と、息遣い。匂いと歩く音。視覚以外の全てを使って、君という人と好きになった。外見、学歴、地位や名誉……そんなことはどうだっていい。ただ俺は、渡辺輝という女性が好きなんだ」
西条さんは私の髪の毛にキスを落として、指で掬う。
その指先が徐々に降りてきて、耳たぶや首筋に触れる。
「ほら、こんなにも可愛いのに」
西条さんの甘く低い声で囁かれ、ぽっ、と私の体温が上昇して、息ができない。
「私は……西条さんに相応しくないですから……」
「それを決めるのは俺だろ?」
ねっとりとした手つきで私の腰を抱く。その手は、今まで仕事中に触れていた手とはまるで違う。情熱的で、本能に訴えるような誘惑するような男の人の手だ。
「あの、西条さんっ、困ります……」
いつも付けていたアイカメラは知らぬ間に外されていて、眼鏡も何もつけていないその表情。
家で過ごしている時、いつも見ていたはずなのに。レンズを通さないその瞳が、私だけを映しているのがはっきりと見えてしまって恥ずかしくなる。
「俺を散々困らせたんだ。たまには俺が困らせたっていいだろう」
「西条さん……」
首筋に唇が軽く触れる。
ちゅ、と音がすると、恥ずかしさで縮こまりたくなってしまう。
「徹って、呼んで」
普段はふんわりと香る彼の優しいベルガモットの香りが、今は濃く残る。
「徹さんっ」
「うん」
満足そうに徹さんが返事をすると、私の唇に彼の唇が重なる。
「んっ、ま、まっ、て」
「待たない」
重なる唇は角度を変えて、互いに求め合う。
壁に寄りかかったままの私を逃がす気などない。ゆっくりと、咥内の熱を絡め合えば、柔らかな心地好さにうっとりとしてしまう。
優しい口づけが少しずつ私の心を融かしていく。いつか私が思い描いていたことが起こっている。私はもう、自分に正直になっていいのだろうか。
やがて唇が離れて、見つめ合う。
「お前が離れてしまうのがたまらなく不安だった。もう離さない」
徹さんは私を埋めるように背中に腕をまわしてもう片方の手で後頭部も抱きしめる。
熱く強い抱擁に、思わず私は涙が流れてしまう。ぼろぼろと大粒の涙がとめどなく流れ落ちてくる。
「私だって、離れたくなかったです。でも……でも、私じゃあなたの隣は相応しくないって思って、それで」
今まで隠していた本音。
私は西条さんが、徹さんが好きだった。かけがえのない私の光。この人がいるだけで、この人の傍にいるだけで、幸せになれる。一緒にいたいと思える人だから。
「俺はこれからもずっと輝と一緒にいたい。妻にしたい。ずっと前からそう思っていた。君は俺の心を優しく照らしてくれる光だった。君がいるから、もっと頑張ろうと思えたんだ」
「徹さん……私、徹さんのことが好きなんです。愛しています。だから、この契約が終わったら終わる関係だなんて嫌……っ!」
心の底から叫んでみた。私のありのままを。そうすると、徹さんは私の頭を撫でて抱きしめていた腕を緩める。
「ようやく本音を言ってくれたね。真っ直ぐだ」
「はい……!」
笑い合う私たち。
こんな幸せなことがあっていいのだろうか。心が通じ合って、徹さんの愛が流れるように伝わってくる。
「輝」
「はい」
「この先に進んでしまっても、いいだろうか」
「……はい」
私が返事をすると、徹さんと私は徹さんの部屋に移動した。
そのまま雪崩れ込むように大きなベッドに押し倒されて、その先に進むことを許した。