全盲の御曹司は契約バディを妻にしたい
あの眼鏡姿。間違いない。私は促されたとおりに着席する。
「今、私の秘書は宮田のみなんですよ。最近までもう1人いたんですがね。ワケあって辞職する運びとなり、ちょうど枠が空いていて困っているのですよ」
西条さんはごく自然と話す。
大企業の御曹司というが、その親しみやすい声色と表情からはとても悪い人だとは思えない。
それでも、ちょうど内田ちゃんと話していたことが過ぎってしまって、疑い深くなってしまう。
「なかなかうちの秘書は長続きしなくて大変でして。まあ、上司である私が言うのもどうかと思いますがね」
「それで……私は何かまずいことでもしてしまったのでしょうか……」
私は恐る恐る尋ねる。
「今日あなたに出会って、秘書として、私の《目》として働いてほしいと思ったのですよ」
「え、っと。目、というのは……それに、いきなり言われても私も仕事がありますしそれに」
「それなら心配ないですよ。ね、部長?」
「悪い渡辺……! 西条様はお前が秘書として半年間だけでいいから、働いてくれるのなら、喜んでエッセイもうちで出したいと言ってくれていてな……」
「ちょっと待ってくださいよ、私そんな秘書だなんてやったこともないですし」
そんなことってある?!
本当に最悪の俺様御曹司だ。週刊誌の書いていたことは本当なのかもしれない。
私と引き換えにエッセイを書いてやるだなんて。それに、どうして私が恩を仇で返されるようなことになるのよ!
「心配しなくていい。今の職場の君の席は残ったままだ。出向という形で私のもとに配属するように手配する。どうかな?」
「いや、それでも私は……」
私が渋ると、横で部長が目くばせをしてくる。
本当に部長はこの企画に力を込めていたし、私が首を横に振ったらこの企画も頓挫しかねない。
そう思うと、その先の言葉が出てこなかった。
「君の仕事はただ1つ。私の目として、私の隣を歩いてくれるだけでいいんですよ。それに、エッセイを書くにあたって、営業部の君が私と共に時間を過ごしていたら、それはそれで良いものが書けそうとは思わないかな?」
反論ができない……。たしかに西条さんの言う通りだ。
編集者がいたとしても、執筆者と一緒に過ごすことができるなら、私視点で何かアイディアが浮かぶかもしれないし、よりよい作品作りができるのかもとか思ってしまった。
私が返答に悩んでいる間、西条さんだけでなく、部長と宮田さんも私に注目している。
その視線が突き刺さって抜けない。痛い。
「はい……やります……」
気は進まないが、半ば強引にこの契約に乗ることにした。
こんな空気の中、それ以外を言える人がいるだろうか。それしか道がないと思う。
「おお! よかった」
「渡辺ぇっ……!」
部長は私に握手をして何度もお礼を言ってくる。
本当は断りたかったけれど、部長にはたくさんお世話になったし。それに、この職から離れずに済むのなら、半年くらい営業から離れるだけの修行だと思えばいい。
どんな仕事でも、何かきっと学びはあるはずだ。
そうやって私自身に言い聞かせた。
「それでは明日から早速よろしく頼むよ。渡辺さん」
「はい……」
こうして私は、エッセイを書いてもらうために、この自己中で俺様な最悪御曹司の秘書《バディ》として、彼の《目》として、働くことが決定したのである。
「今、私の秘書は宮田のみなんですよ。最近までもう1人いたんですがね。ワケあって辞職する運びとなり、ちょうど枠が空いていて困っているのですよ」
西条さんはごく自然と話す。
大企業の御曹司というが、その親しみやすい声色と表情からはとても悪い人だとは思えない。
それでも、ちょうど内田ちゃんと話していたことが過ぎってしまって、疑い深くなってしまう。
「なかなかうちの秘書は長続きしなくて大変でして。まあ、上司である私が言うのもどうかと思いますがね」
「それで……私は何かまずいことでもしてしまったのでしょうか……」
私は恐る恐る尋ねる。
「今日あなたに出会って、秘書として、私の《目》として働いてほしいと思ったのですよ」
「え、っと。目、というのは……それに、いきなり言われても私も仕事がありますしそれに」
「それなら心配ないですよ。ね、部長?」
「悪い渡辺……! 西条様はお前が秘書として半年間だけでいいから、働いてくれるのなら、喜んでエッセイもうちで出したいと言ってくれていてな……」
「ちょっと待ってくださいよ、私そんな秘書だなんてやったこともないですし」
そんなことってある?!
本当に最悪の俺様御曹司だ。週刊誌の書いていたことは本当なのかもしれない。
私と引き換えにエッセイを書いてやるだなんて。それに、どうして私が恩を仇で返されるようなことになるのよ!
「心配しなくていい。今の職場の君の席は残ったままだ。出向という形で私のもとに配属するように手配する。どうかな?」
「いや、それでも私は……」
私が渋ると、横で部長が目くばせをしてくる。
本当に部長はこの企画に力を込めていたし、私が首を横に振ったらこの企画も頓挫しかねない。
そう思うと、その先の言葉が出てこなかった。
「君の仕事はただ1つ。私の目として、私の隣を歩いてくれるだけでいいんですよ。それに、エッセイを書くにあたって、営業部の君が私と共に時間を過ごしていたら、それはそれで良いものが書けそうとは思わないかな?」
反論ができない……。たしかに西条さんの言う通りだ。
編集者がいたとしても、執筆者と一緒に過ごすことができるなら、私視点で何かアイディアが浮かぶかもしれないし、よりよい作品作りができるのかもとか思ってしまった。
私が返答に悩んでいる間、西条さんだけでなく、部長と宮田さんも私に注目している。
その視線が突き刺さって抜けない。痛い。
「はい……やります……」
気は進まないが、半ば強引にこの契約に乗ることにした。
こんな空気の中、それ以外を言える人がいるだろうか。それしか道がないと思う。
「おお! よかった」
「渡辺ぇっ……!」
部長は私に握手をして何度もお礼を言ってくる。
本当は断りたかったけれど、部長にはたくさんお世話になったし。それに、この職から離れずに済むのなら、半年くらい営業から離れるだけの修行だと思えばいい。
どんな仕事でも、何かきっと学びはあるはずだ。
そうやって私自身に言い聞かせた。
「それでは明日から早速よろしく頼むよ。渡辺さん」
「はい……」
こうして私は、エッセイを書いてもらうために、この自己中で俺様な最悪御曹司の秘書《バディ》として、彼の《目》として、働くことが決定したのである。