全盲の御曹司は契約バディを妻にしたい

第2話 契約バディの仕事

 私はあの俺様御曹司……西条さんが私をスカウトしたその翌々日から住み込みで《契約バディ》として働くことになった。
 所属としてはこれまでと変わらず創界社で、約束通り出向として処理された。
 
 期限は半年。その間しっかりお給料は西条ホールディングス側で特別手当として出してもらえるし、今住んでいるアパートの家賃を全額負担した上で、西条さんの所有するマンションの一室に住み込みとなる。どうやら必要に応じて、生活の援助も行うそうだ。
 なんという好待遇……強引な形となって、人質のようなものであったことを自覚してのことだろうか?

 それはさておき。
 私との契約が切れる前に正式な秘書を見つけて同じ仕事をしてもらうらしいけど……正直、どうして辞める人が絶えないのかわからない。
 こんなに待遇がいいのに。
 たしかに自己中で俺様な部分はあったけど、礼節をわきまえている立派な次期社長候補として仕事をしているように思えた。
 配慮もあるように感じるし。

「基本的に西条はこの部屋を使うことはないとは思いますが、立て込んだ仕事があったりすると、会社から近いのでここに寝るために帰ってくることもありますのでご了承ください。では、もし何かありましたらご連絡ください。明日からよろしくお願いいたします」
「はい、ありがとうございます」

 宮田さんは本当に丁寧で真面目な人だ。
 今日は事務処理で忙しくて電話でのやりとりになってしまって申し訳ないと話していた。

 説明によると、このマンションはどうやら西条ホールディングスの西条徹としての所有物らしい。
 そして、西条ホールディングスの本拠地であるビルがすぐ近くにあり、繁忙期になるとここに寝泊まりするということだ。

 こんないいところに住まわせてもらうのも申し訳ない。一生こんな部屋に住むことなんてないだろう。
 住み込みとなるとのことだったし、てっきり西条さんが住んでいるところに家政婦兼バディとなるのだとばかり思っていたから少し安心した。

 仕事とはいえ、さすがに毎日あの人と顔を合わせるだなんて気が休まらない。
 今日は移動日ということで部屋を整えたり、用意された読み物、契約内容の確認などの作業があった。

 自室として用意された部屋も広くて、実家のリビングよりも広いくらいだ。
 ベッドとデスク、テレビと必要最低限の家具や家電も揃えられていた。寝具の重厚感やシーツの艶を見て、もしかして全ての家具や家具が高価な物な気がして、私は値段のことを考えないようにした。

「さて。マニュアルでも読むか」

 宮田さんからの連絡を受けた時には一通り荷物の搬入も終えていたから、休憩がてら用意されていたマニュアルを読んでみることにした。
 これも宮田さんがこれまでの秘書たちのために作成していたものらしい。
 西条さんの目となるための心得や基本的な情報がまとめられた冊子だ。

「結構、厚いのね……」

 心得として、視覚障害者とは何ぞやといった概論のようなもの、実践編、西条さんがよく行く場所の地図、医療関係者や業務上知っておくべき人たちの一覧など、トップシークレットな情報がこの冊子には書かれてある。

「そりゃあ、契約書にも秘密保持契約について書くよね……当たり前のこととはいえ、秘書になるってそういうことよね……この会社の要人の傍仕えみたいなものだし。外部に漏らしたらそれは大罪ものよ」

 視覚障害のある人をサポートする人のことを、『ガイドヘルパー』というらしい。
 ガイドの基本を詳細に記されていて、イメージがしやすい。さすが宮田さん。

 大学生の時にサークルで活動していた時は、交流会やスポーツ大会みたいなイベントに参加したくらいで、実際にサポートをしたことはなかったから、勉強が必要だろう。
 とにかく、基礎は今日中に叩き込んでおかなくては。

「サポートする人は視覚障害のある人の白杖を持つ手の反対側に立ち、肘の少し上を握ってもらう……背の高さが違う場合は肩に手をかけてもらう方がよい場合もある。なるほどね」

 私は食らいつくようにガイドの基本を読み込んだ。
 たとえ自分がしたい仕事でなかったとしても、私はこの企画を成功させるための重要な鍵なんだから。
 そう思うと、半端な気持ちで明日からの仕事に挑むことはできない。

 しばらく読んでいて、一通り読み終えた頃。時計はすでに15時を過ぎていた。
 1時間半は読んでいただろうから、少し休憩するためにお茶を淹れようとした時。

 ガチャっとドアが開いた。

「えっ、誰?」

 私は玄関の方に忍び足で向かうと、そこには西条徹ご本人がいた。
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