全盲の御曹司は契約バディを妻にしたい
 西条さんも私と同じような活動をしていたとは驚いた。てっきり、もっと派手なサークルに所属していたのだと思っていた。

「そうなんですね。私もしていたんですよ、福祉ボランティアサークル」
「ああ。知っている」
「えっ?」

 彼は私の方をじっと見つめる。
 レースカーテンから射し込む強い日差しが部屋を明るくする。

「君の学校も含めたあの交流会で知ったんだ。任意の他学合同ボランティアの時も、献身的で太陽のような笑顔で周りを明るくしていた。それが印象的だった。皆は就活のために参加している中、君は本心で参加していたように思う。声色でわかった」

 西条さんの目尻が下がる。
 そんなことってあるの? 私はただの平凡庶民で……覚えられるような関わりなんてしていないのに。

「お、大げさですよ。確かに私はやりたくてやっていましたけれど、表彰とかされていないしそんな立派なことは……」

 学内表彰といって、学業や研究、課外活動、社会貢献などで顕著な功績をあげた学生が表彰されていたけど、私は対象者じゃなかった。

「大げさじゃない。俺は君の名前を憶えていたし、あの会社に勤めていることも調べてわかっていた。だから、エッセイの話が来た時はもしかしたらと淡い期待もしていた。そしたら、駅であの声に再会したんだ」

 西条さんはコーヒーを飲みながら平然とした表情で話している。それでも、いつもより声に力が込められていて、感情が露わになっているように思う。
 そんなことを言われてしまったら、私はこの心に秘めておこうと思っていたものが出てしまいそうになる。

「あれは本当に偶然で」
「俺は偶然だろうとなんだろうと、君に再会できて嬉しかった。だから、強引にでも、俺の傍においておきたかった」

 ああ、本当に悪い男だ。
 私という平凡に終わるはずだった女の人生を、いとも簡単に変えてしまったのだから。

「そんな。本当にわがまま暴君ですね、西条さんは……」
「そうさ。俺は欲しいもののためになら、どんな手段だって取る。嘘のような笑顔で相手を信用させて円滑に仕事をするのも、俺を厄介者扱いするような奴を排除するのも、そして──君という1人の女性を自分の傍においておくために、こんな強引な契約をするのも。それは俺が俺だからだ」

 西条さんは私を抱きしめようとする。
 私はそれを拒むことができなかった。

「俺には君が必要なんだ……」
「でも私は……」

 西条さんの厚い胸板に私は埋まってしまう。心臓の鼓動が速い。

「だから、半年だけなんて言わないでほしい」
「……考えておきます」

 私には不釣り合いだよ。
 実家は地方にあって、大衆食堂を営む両親のもとに生まれて。西条さんのように莫大な資産があるわけでもないし、だからといって会社で権力があるとか立派な仕事をしているわけでもない。
 私には私に合った人生を歩むべきなんだ。

 それに、西条さんには『許嫁』と噂される女性がいるのを私は知っている。
 関係者一覧にいた女性。沢城優子さん。
 沢城財閥のご令嬢で、容姿端麗で才女と噂されている素敵な女性。
 彼女の方が、西条さんにとって相応しい。私なんかが邪魔してはいけない。

 そう頭では理解していながら、今だけは赦してほしいと、束の間の幸せを抱きしめる。
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