魔女狩りの世界の果てで、あなたと愛を歌おう
プロローグ

 金色、だ。

 目の前に広がる、まばゆい金色の光。

 それが徐々に形を成していって……。



 オオカミ?



 光は、しなやかな体のオオカミへと変わった。

 美しい、ほれぼれするような金の毛並みの獣。

 オオカミはわたしに近づいてきた。

 不思議と、恐怖は感じない。

 すり、とオオカミがわたしの足に体をすりつけてきた。



 ふふ、ちょっとくすぐったい。



 心がほんわかして、あったかい気持ちになる。

 わたしはかがんでオオカミと顔を見合わせた。

 オオカミはなんだかご機嫌そうだ。

 わたしを見つめながら、優しいまなざしで、口を開いた。



 ウォーン、ウウウ、ワォーン。



 遠吠えというにはあまりにもかわいらしい鳴き声。

 なんだか歌っているみたいで、思わず笑みを浮かべてしまう。



 歌、か。
 わたし、もう三年くらい、歌ってないな。
 それどころか……、しゃべってすらいない。
 ……わたしは、「魔女」だから。
 歌うことも、しゃべることも、許されないから。



 こんな、自分の見ている夢の中でさえ、しゃべろうとしても声が出ない。

 そう、これは夢。そう、ハッキリ認識できる。

 嫌だなあ、目覚めたくない。

 現実の世界は……、とても残酷だから。



「歌おうよ、歌鳴(カナ)」



 え?



 唐突にあたりに響いたのは、少年の声。

 きょろきょろと見回して、甘くて、心地のいいその声の主を探す。



「歌おう」



 見ると、オオカミがしゃべっていた。

 しゃべれるんだ……。まあ、夢だし何でもありだよね。



「カナ」



 また、オオカミがわたしの名前を呼ぶ。

 無理だよ。だって、わたし、魔女だもん。
 この「首輪」が、「罰」がある限り、歌えない……。

 そう思いながら、自分の首元に手をやる。



 ……?
 首輪が、ない?



「大丈夫。さあ、一緒に」



 オオカミがハッキリと、でも、温かくうながしてくれる。



「愛を、歌おう」



 すべてを許し、包みこんでくれるような穏やかな声色。

 愛。

 愛を、歌う。

 それを聞いて、わたしは、わたしは……!
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