魔女狩りの世界の果てで、あなたと愛を歌おう



「うう。その……。あの……。鳥居さん」


 梨田さんはうろたえつつ、わたしの名前を呼んだ。

 でも、その後の言葉が続かなくて、困っているようだった。

 何も言わない梨田さんと、涙を流し続けるわたし。

 そんな中、能天気な声が響きわたった。



「へー、魔女さんって、苗字『鳥居』って言うんだ」



 ……え?

 こんな状況で、何?



「はい、コレ」



大上くんはわたしにきれいに折りたたまれたハンカチを差し出した。

 ……これ、どうすればいいんだろ。

 わたしなんかが、つかっていいのかな?



「涙、跡がのこるとヒリヒリするから。遠慮なくつかって」



 大上くんはわたしの手をとると、ぎゅ、とハンカチを押しつけた。

 朝、手をとられた時のことを思い出す。

 あったかい手。



「鳥居……、名前は何て言うの? って、しゃべれないんだっけ」

「……鳥居さんの名前は、『カナ』って言います。
 歌うに、小鳥が鳴くで、『歌鳴(カナ)』」

 大上くんの問いに、か細い声で梨田さんがこたえた。

 梨田さん、わたしの下の名前、知ってたんだ。

 しかも、漢字まで。

 ちょっとびっくりして……、
 ほんのちょっぴり、うれしい、なんて思って、涙がひっこんだ。



「お、サンキュー! じゃあ、三つ編みさん、キミの名前は?」

「え? あの、梨田、有希(ユキ)……、です」

「知ってるかもだけど、おれ、大上リヒト。
 ふたりとも、リヒトって気軽に呼んで。
 おれもふたりのこと下の名前で呼ぶから」
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