魔女狩りの世界の果てで、あなたと愛を歌おう
いけない、いけない。
ないものねだりをしたって、しょうがないんだ。
考えを切り替え、正面に向き直り、スマホをとりだす。
待受画面は、音声合成ソフト、「シンガール」の少女ミミだ。
やっぱりミミはかわいいなあ。
明るいオレンジの髪をポニーテールにして、
オシャレな服を着て笑っている。
声を出せないわたしの代わりに歌って、
時にはしゃべってくれる、相棒。
さて、曲作りの続きをしようっと。
わたしは画面をタップして、作曲アプリ「スマイルバンド」を起動させた。
アナウンスされる駅名をチェックしつつ、スマバンを操作する。
時間はあっという間に過ぎていき、あと一駅で、降りる駅だ。
座っていたシートから立ち上がろうとして……、
それが、できないことに気づく。
目の前のつり革ふたつに、大学生くらいの男の人がふたりつかまっている。
それも、わたしが立てないように、わたしとの距離をすっごく詰めて。
ちら、とふたりの顔を見ると、わたしの顔を見てニヤニヤと笑っていた。
見ると、いつの間にか、わたしの両隣の席にも若い男の人たち。
この人たちも、嫌な笑みを浮かべている。
わたしは、両側と前を四人の男性に囲まれ、完全に身動きがとれなくなっていた。