魔女狩りの世界の果てで、あなたと愛を歌おう



◆◆◆ 


 ある日、何がきっかけだったか忘れたけど……。

 お父さんが、教えてくれたんだ。

 わたしがまだ幼稚園にあがる前の時のことを。

 その日は、わたしの誕生日だったんだって。

 リビングダイニングで、
 たくさんのごちそうを食べて……、いよいよ誕生日ケーキ!

 そのケーキは、お父さんが冷蔵庫からとってくることになってた。

 テーブルから冷蔵庫まですぐだし、普通は何の心配もないよね。

 ただ、お父さんが、
 おどけて「ジャーン!」と片手でケーキの箱の下を支えて
 持ってきたのが失敗だった。

 ずるっとケーキの箱がお父さんの手から滑り落ちて……。

 べちょ。

 無残にも、ケーキの箱はひっくり返った形で床に落ちた。

 わたしは何もリアクションを起こさなかった。

 泣くことも、怒ることも。

 ぶっちゃけ、わたしはちっちゃすぎて、
 何が起こったか理解してなかったんだよね。



「うわ! ごめん! 本当にごめんな、カナ!」



 お父さんが謝っても、わたしはきょとーんとしてたらしい。

 でも、わたしの代わりに大声を上げた人がいた。



「うわあああん!」



 大粒の涙を流して、お母さんが泣き出しちゃったんだって。

 お父さんは、大あわて。



「ごめんな、食べ物を粗末にして」

「ち、違う!」

「えっ……。
その、せっかくキミが注文して、
買ってきてくれたケーキだったのにな」

「違う!」

「ええっ!
その、おれが、おどけて失敗したから、怒ってるのか?」

「それも違う!」
< 38 / 100 >

この作品をシェア

pagetop