魔女狩りの世界の果てで、あなたと愛を歌おう

 これ以上聞いて、
 このぐちゃぐちゃした感情がかき乱されるのはイヤだ。



「まあ、聞きたくないと思うが、聞いてほしい。
リヒトは、もう家に帰りな」



 火野さんの命令に、
 リヒトくんは名残惜しそうにしながらも、階段を上って行った。

 ……しょうがない。

 さあ、次は何?

 わたしはもう、腹をくくった。



「ふふ、そんなにカッカとしなさんな。
ま、気持ちはわかるけどね」



 火野さんは、眼鏡をはずし、色っぽく笑った。

 今までのイメージと全然違って、ヘンな感じだ。



「アイツ、バカだよな」



 アイツ……?



「リヒトだよ。
バカすぎ。スパイにまったく向いてない」



 はあ~っと火野さんは大きくため息をついた。

 ……そう、かな。

 お母さんの時の機転とか、
 普通の人じゃあまり思いつかないと思うけど。

 あと、コミュニケーション能力半端ないから、
 情報収集とかも得意そう。



「普通、『われわれはスパイです』なんて、ばらさないだろ? 
だって、キミがそれを警察にうったえたら、もう終わりだ。
この隠れ家も知られてるしな」



 ハッとする。

 そういえば、そうだ。



「まいったよ。
キミを切り捨てて、
わたしはさっさとリヒトを国に返そうとしていたのに。
アイツは、『カナに真実を伝えたい』なんてダダこねてさ」



 怒ったように、困ったように、火野さんは眉をよせた。

 わたしは息をのんだ。

 そうか、わたし、切り捨てられてもおかしくなかったんだ。
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