魔女狩りの世界の果てで、あなたと愛を歌おう
それより下の、『青磁』の刑だって、
絞首刑、縛り首だ。つまり、死刑。
そんなの……、絶対に、嫌!
死にたくないよ!
十時五分。
がたがたと震える体をおさえこむ。
ああ、これなら、
最初からリヒトくんをスパイとして通報してればよかった。
そうしたら、
わたしは魔女から、一般人になれたかもしれないのに。
魔女から、一般人に……。
(……やっぱり、この言葉、嫌だな)
……。
あはは。
なんで、リヒトくんの言葉なんて、思い出しちゃうんだろう。
(……あ~、もう!
『一般人』とか『魔女』とかじゃないだろ!
みんな、『ただの人間』なんだよ!)
うるさい! 黙れ!
こんなの、ただのきれいごと。
政府に逆らう、反逆者の言葉。
(魔女じゃなくて、カナ。
カナのために、なんとかこの国の魔女制度をなくしたい。
そう、思うようになった)
……。
わたしの、ため。
(おれの果たしたい目的は……、
カナのおかげで、血の通った、信念になったんだ)
信念……。
そうだ、リヒトくんは、信念をもっていた。
わたしには、そんな信念がある?
(この十一日間は、キミへの猶予だと)
(キミを裏切ってしまった、リヒトなりのけじめだ)
火野さんの言葉がよみがえる。
わたしは、この十一日間、考えて、考えて……。
あっちへふらふら、こっちへふらふらと考えが揺れて。
リヒトくんを犠牲にして、幸せをつかみとること。
リヒトくんを許して、
「好き」だった気持ちを思い出にかえて、
それを糧に生きていくこと。
その、どちらもできなかった。
そんな、なさけないわたしだけど……。
今、決断しなきゃ。
わたしは……。
十時十分。
わたしは、会場へと走り出した。
リヒトくんを、助けると決めたから。
だって、やっぱり……。
信念を貫き通したリヒトくんのことが、大好きだから。
例え、わたしがこの事件のせいで、
魔女裁判で死刑を言いわたされても……。
リヒトくんが死ぬよりは、ずっとマシだ。
大好きな人が死んでしまうよりは、ずっとマシなんだ!
リヒトくん。
……リヒトくん!
十時十五分。
足がもつれて転ぶ。
ひざがすりむき、血が出る。
かまってなんか、いられない。
十時二十五分。
会場へ着く。
係員さんにとめられても、無理矢理玄関をくぐる。
走れ。
走れ、走れ。
ホールへのとびらを開けると、客席は盛り上がっていた。
舞台の時計を見る。
十時三十分。
司会の人が、次の曲の……、リヒトくんの、紹介をする。
客席の照明が暗くて、足元がよく見えない。
足がもつれて、何度も転ぶ。
苦しい。
ぜひゅ、ぜひゅとおかしな息が出る。
お客さんたちが、何事かとわたしを見だす。
十時三十二分。
ステージから、リヒトくんが、出てきた!
わっと歓声が上がる。
わたしは必死で、舞台に上がろうとする。
「ちょっと、何をしてるんだ、きみ!」
舞台前にいた警備員さんをかわし、舞台上へ。
曲の前奏が流れ出す。
間に合え……!
間に合えええぇぇぇっ!