赤い糸を離してくれない

1.あの日

　――――５年前――――

　悲劇は突然起こった。

「可哀想に……子供2人残して……」
「雫ちゃんはまだ小学生でしょ？」

ポクポクポクと規則正しい木の音と呪文のように何かを唱える低い男の人の声。

そして私たち兄妹を同情の目を向けて話す大人達。

今日は私、奥村雫（おくむら　しずく）の両親の葬儀だ。
交通事故だった。

4日前にお父さんとお母さんは2人で買い物に行ってくると言って車でスーパーに向かった。

私は今日はオムライスが食べたい！とお母さんにお願いした。お母さんはいつもの様に優しい笑顔で頷いてくれた。
お父さんにはアイスが食べたいとおねだりして分かったよと言って頭を撫でてくれた。

私は玄関まで2人を見送った。
「お兄ちゃんといい子で待っててね」と笑顔で手を振ってドアが閉まった。

それが最後に見た2人の顔。

何時間待ってもお父さんとお母さんは帰ってこなかった。


　数日前まで4人で普通にご飯を食べて、お風呂に入って、寝て。
そしてまた起きて。学校に行って、帰ってきたらお母さんがいる。沢山今日会ったことや友達の話をする。
そしてお兄ちゃんお父さんの帰りを待ちながら大好きな絵を描く。

　本当に普通の家族だった。普通の幸せな日だった。

　なのにもうお母さんにもお父さんにも会えない。
　会話することもできない。

　もう戻れないんだ。

　もう居ないんだ。
　流石に11歳の私もその意味が分かる。
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