緋色の徴(しるし)・改訂版・リリカとサリエル 魔法の恋の行方シリーズ
「サンドラちゃんも変わっていたけど、あなたも相当に変わっていますね。
言いませんよ、誰にも。私とあなたの秘密にしておきましょう」

相手の弱みを握るのも、戦略としては重要だ。

しかし、魔女の足のサイズや、偏平足は、はたして弱みに該当するのだろうか・・
素朴な疑問を持ちつつ、サリエルは残った包帯やはさみをバスケットにしまいこんだ。

「整形外科に行きましょう。車を出します」
サリエルは立ち上がった。

「ここで、待っていてくださいね」
リリカは、ベンチの横に置いてある半分つぶれたブーケを見た。

「花が・・」

「それは、私が預かっておきましょうか?」

「いや、アレクサンドラに返してほしい・・」
リリカは、力が抜けたように言った。

「わかりました。では、待っていてくださいね」

サリエルはブーケとバスケットを持って、立ち去った後、大魔女リリカは、膝に手をついて頭を垂れていた。

サリエルが車の鍵を持って、ベンチに戻った時は誰もいなかった。

保冷材や湿布、包帯だけがベンチの上に散らばって置いてある。
石畳にはヒールの折れた靴が、転がっていた。


裏門を見ると、茶色の尻尾の長い猫が後ろ足を引きずって、通りを歩いていく。
猫はきれいな茶色・・シナモン色だ。

一瞬振り返って、サリエルを見たが、すぐに植え込みの中にもぐりこんで姿を消した。

「整形外科ではなく、獣医か。猫を入れるバスケットも必要だったな」

サリエルは腕組みをして、しばらく考えていたが、ヒールの折れた靴を拾い上げ、包帯や湿布もまとめて袋に入れた。

<魔女っておもしろいな>・・サリエルは独り言を言いつつ、教会に戻った。
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