緋色の徴(しるし)・改訂版・リリカとサリエル 魔法の恋の行方シリーズ

天使と魔女のこども

翌日の昼過ぎだった。
マンションの4階の廊下まで、甘い香りが漂っている。

「なんか、アイツ、やべーよ。天使と思えないよぉ」

リリカは興奮した口調で、オーブンからクッキーを取り出しているアレクサンドラに報告していた。

「よく、うちに来るけど、そんな感じじゃないよー。礼儀正しいし。
昨日、リリカのバックと靴も、わざわざうちまで届けてくれたじゃん?
グルシアと同じ大天使だし、仕事できるし、見た目もいいよ?」

リリカは焼きたてのクッキーを、火傷をしないように指先でつまんで

「んだけどさぁ、性的指向って、オトコ天使も色々だよ。
表からはわかんないものだし。二人きりにならないとね。
縄で縛って欲しいとか、ヒールで踏んでほしいとか、鞭で打ってほしいとか、言いそうでさぁ」

「つまり、マニアックな変態野郎ってわけだ」

グルシアが、リビングの扉を開けて入って来た。

リリカはぴぃんと立ち上がり、アレクサンドラは

「おっかえりーーー!」
と言って、抱きついた。

「こらこら、お客様の前でダメだよ」
グルシアは言いつつも、鼻の下と頬が緩んでいる。

「デへへへへーー、リリカなら大丈夫だよ」

アレクサンドラが幼女のように甘えて、ベタベタしているのを見て

「やっぱ、アタシ、帰るわ」

リリカはしらけた感じで、バックを持った。

新婚夫婦のいちゃいちゃを、目の前で見せつけられても正直面白くない。

「だめだよぉ、リリカ、話があるって言っていたじゃん。
ダーリンも一緒にクッキー、食べようよぉ」

アレクサンドラは、かいがいしくグルシアから上着と鞄を受け取り、ヨメの仕事をしている。

「今、お茶、入れるからね」

やっぱり、大天使は苦手だ。
リリカは目の前に座ったグルシアから、視線をそらすためにベランダを見た。

男物のワイシャツ、シーツ、枕カバーなどの洗濯物が風で揺れている。
もう少ししたら、赤ん坊のおむつカバーとか、タオルケットとかも干されるようになるだろう。

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