緋色の徴(しるし)・改訂版・リリカとサリエル 魔法の恋の行方シリーズ
観察対象か・・グルシアは思った。

こいつにとっては、ニンゲン界の地球温暖化現象と大魔女リリカは、同列なのだ。

恋愛対象として、見ているわけではない。

サリエルは思い出したのか、まだクスクス笑っている。

「まっ、リリカ君は、実際困っているのだが」

グルシアは率直に言った。

「大天使会議にねぇ。
自ら出張って訴えに来るのは、たいした度胸だよね。
その気持ちはわかるよ。
現在の魔界での魔女の地位は、ダダ下がりだし」

サリエルの意見を聞いて、グルシアはうなずいた。

「俺としては、リリカ君の主張に同意をしたいと思うのだが」

グルシアは、<娘のために>という言葉を飲み込んだ。

「君もそれに同意してくれると、会議の流れができるのだが」

「なぜ、君が、そこまで肩入れするんだ?」

サリエルが鋭く指摘した。

「アレクサンドラと・・・今度生まれてくる・・娘のためだ」

そう言って、グルシアは苦し気に息を吐いた。

「ああ、そうなのか。おめでとう、君もパパになるのか」

サリエルは、祝福するように手を差し出した。

「それならば仕方ないか。
僕としては、会議でリリカちゃんが困っている顔を見たいんだけどな」

グルシアは、こいつはやはり変態かもしれない、と考えはじめていた。

「僕がリリカちゃんに徴(しるし)をつけると言ったら、彼女、メチャクチャ困るだろうね」

「いや、猫になって、速攻逃げるだろうが」

グルシアは、怒り狂って暴れる茶色の猫を想像した。

「そーなんだよねー。彼女、逃げ足が速いんだよな」

本音か冗談かわからないが、サリエルは曖昧に笑った。


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