緋色の徴(しるし)・改訂版・リリカとサリエル 魔法の恋の行方シリーズ
緋色の熱で口内で満たされる、その陶酔感。

「ぷはっ!」

リリカが苦しくて、サリエルの肩を叩くとやっと唇が離れた。

「リリカちゃん、愛しているよ」

サリエルは上気した顔でそう言うと、リリカを強く抱きしめた。

「愛している?・・・」

リリカはサリエルの耳元でつぶやいた。

酒場の喧騒と、酔っぱらいの大声と、むせかえるような煙草の煙の中で、冗談混じりで言う言葉。

「愛している」なんて、紙よりも軽い。

突然、胸が締め付けられたような感覚に襲われた。

サリエルのリリカを見るまなざしはせつなげで、その瞳は恥じらいで揺れる。

「だから僕は、もっと君と・・・本当の愛を確かめたいな」

「本当の愛」なんて・・・ずいぶんとロマンチックな言葉じゃないか。

サリエルは変な奴だが、自分を繊細なガラス細工のように、大切に扱ってくれるように思えた。

「アンタなら・・・いいかも」

リリカは脱力して、サリエルに体をあずけるようにもたれかかった。

それからサリエルの指に、自分の指を絡めた。

サリエルの「初めて」の相手になること。

こうなることを、自分もどこかで・・期待をしていたのかな。

サリエルの中に、「本当の愛」を見つけることができるのかな。

まぁ、遅かれ早かれ、魔女を続けるのは厳しいと思ったし・・・

「リリカちゃんとしたい」

サリエルの声が、なぜか遠くで響くよう。

ゴトン

その時、エレベーターが動き出した。
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