冷酷弁護士と契約結婚
冷酷な彼

冷酷な彼

薄暗いホテルの部屋、ベッドのきしむ音と耳障りな女の喘ぎ声が響く。

徐々にその音と声がリズミカルに加速し、突然部屋はまた静けさに包まれた。

深呼吸を繰り返しベッドから降りようとした時、女の手が伸び俺の顔に触れようとした。

「気安く触るな」

女の手を払いのけ、浴室へ向かう。

冷たいシャワーで身体のほてりを鎮め、濃紺のオーダーメイドスーツに身を包み、再びベッドルームへ戻った。

女はまだベッドの上に横たわり、俺を見てにやけている。

そんな女を無視しサイドテーブルへ近づくと、スマホの上に名詞が乗っていた。

ルールを守らない頭の悪い女......

大きなため息をつき名刺をビリビリに破き捨て、その場を後にした。

後ろで女が何かわめいていた気がしたが。




俺は一度寝た女とは二度とベッドを共にしない。女を使い捨てのように扱っている。

愛することも、ピロートークもしない。ベッドでの行為が終わったら、もうその女にようはない。

だから名前も知らないし、知る必要もない。

欲望を満たしたい時は、行きつけのバーの一つへ行けば、100%女の方から物欲しそうな下品な顔をして近づいてくる。




女に対して冷酷になるのにはそれなりの理由がある。

183センチで切れ長の目、まあ整った顔立ちといわれる外見、弁護士という職業、そして有名弁護士一族という家柄。

誰も俺自身を見ようとしない、外見と肩書が欲しいだけだ。俺をめぐって醜い争いをする女たちをいやというほど見てきた。

それに加えて、幼い時に両親が離婚。原因は母親が若い男と不倫をしていたらし。あの女は俺を捨てて出て行った。




俺の名は伊集院涼介《いじゅういんりょうすけ》、代々続いている伊集院総合法律事務所で、

企業の顧問弁護士と男性クライアント専門の案を扱っている。


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