冷酷弁護士と契約結婚
契約結婚解消
2週間はあっという間にすぎ、今日は涼介と二人で病院へ行く日だ。
支度が終わり玄関へ行くと、涼介はもう靴を履いて待っている。
近寄った鈴音を真っすぐ見つめ、彼女の顔を優しく両手で包み込んだ。
「なぁ、俺たちの契約結婚をもう解消しないか?
そして......」
言いかけたとき涼介のケータイが鳴り、外へ出た。とっさの出来事に鈴音の体は一瞬硬直し、頭の中が真っ白になる。
繰り返し【解消】という言葉が耳に響き続けた。
(あぁ、遂にこの時が来てしまった。
涼介さんの電話を立ち聞きした日から、このことを考えない様にしていたのに。
ただ一緒にいられればいいと思っていたのに。
涼介さんにとって、これたただの契約だったんだ。
やはり私は愛されていなかったんだ......
勘違いしていた自分が悪いよね)
電話を終えた涼介がドアを開け
「すまない、大至急事務所へ行かなければならなくなった。抜糸が終わったら連絡しなさい。
あっ、帰ってきたらさっきの話の続きをしよう」
早口に伝えさった。残された鈴音はしばらく立ちすくみ、鉛のように重く感じる身体を引きずるようにして病院へ向かう。
「はい、これで抜糸は終わったよ。痛くなかったでしょう?傷跡は薄く残ってしまうな......」
申し訳なさそうに彰人がいった。
「......お世話になりました。ありがとうございます」
浮かぬ顔で礼を言い立ち上がる。診察室に入ってきた時から鈴音の様子に違和感があった彰人は、彼女をランチへ誘う。
「ねぇ、鈴音ちゃん、丁度お昼だし一緒にランチ行こうよ。僕のおすすめの店教えてあげる」
半ば強引に鈴音を連れ出し、彰人が案内したのは裏通りの商店街にある喫茶店”BON"。
店の中は読書ができるくらいの明るさでカウンター席とテーブル席があり、かすかにジャズが聞こえる。
落ち着いた雰囲気でレトロ感ある昭和の喫茶店のよう。
こじんまりとした店のカウンターには、五十代くらいのニット帽をかぶったマスターらしき人が、
コーヒーを入れている。
彰人に気付いたマスターはニッコリ笑う。
「おっ、あきちゃんいらっしゃい。好きなところに座って」
店の奥に席を取り、マスタ―と同年代と思われる品のある女性が注文を受けた。
「ここの店はね、雅の両親がやってるんだ。鈴音ちゃん雅の事覚えている?
伊集院事務所創立記念パーティーで僕たちと一緒にいたでしょう?
おじさんね、早めにリタイアして趣味でやっていた喫茶店に専念しているんだ。
さっきの女性は雅のお母さん。
いいよね、夫婦仲良くってさ。
そういえば鈴音ちゃん、元は伊乃国屋で働いてたんだっけ?」
「はい、私が働いていた時はもう西園寺京《さいおんじきょう》さんが社長でした......」
「何かあったの、鈴音ちゃん? 」
「えっ?......」
「ずっと上の空だよ。僕でよければ話聞くよ」
「......あ、あの彰人先生は何て......
私と涼介さんの結婚の事どう聞いていますか?」
「もしかして契約結婚の事?その経緯は涼介から聞いたけれど、正直初めは驚いたよ。
鈴音ちゃんも知っているでしょう、アイツ女性に対してとても冷めているって。
だから絶対結婚はないと思っていた」
「私たちの利害が一致して。でももう......終わりみたいです」
ぽろぽろと鈴音は涙を流す。
「えっ、どういう事?それ涼介に言われたの? 」
鈴音は泣きながら頷く。
「ちょ、ちょっと待って、本当に?......アイツときちんと話し合った方がいいよ」
「涼介さんが帰ってくる前に出ていきます......」
「待って、話さないとダメだよ。僕が思うに、鈴音ちゃんは涼介の事好きなんでしょう?
そうでなければそんなに泣かないもんね」
彰人はさり気なくケータイをテーブルの下に持ってきて、メッセージを送る。
「ねぇ、どうして話さないまま出て行こうとしているのか教えて? 」
「わ、私がいけないんです。契約結婚なのに、涼介さんの事好きになっちゃって。
愛されてるって勘違いしちゃって......
涼介さん本当は結婚なんてしたくなかったし......
それに私のストーカー問題も解決したから。
だから......
だからもう一緒にいる意味なんて、ないんだと思います」
「鈴音ちゃんはハッキリ涼介から契約終了の理由聞かされてないんだよね? だったらなおさら話し合わないと! 」
「涼介さんと初めて会った日、とても傷つくこと言われたんです。
でも契約結婚中は演技していたからとてもやさしくて。
契約が終わってまた元の冷たい涼介さんに戻ると思うとつらいです」
「結論を早まっちゃダメだよ。僕には二人が本物の夫婦に見えるんだ。
契約中は夫婦関係がいいって周囲に見せかけてたんでしょう?
でもね、創立記念パーティーの時涼介が鈴音ちゃんの事かばったでしょう、いくら演技でもあそこまではしないよアイツは。
それにね、怪我して運ばれてきた日、涼介憔悴しきちゃってさ。『鈴音を失うのが怖かった』って言ってた。
僕、アイツのあんな姿見たの初めてだった......
もしかしたらアイツが本当に言いたいこと、
きちんと鈴音ちゃんには伝わっていないんじゃないかな?
あのさ、涼介の親友としてお願いする。黙ってアイツの前からいなくならないでね」
支度が終わり玄関へ行くと、涼介はもう靴を履いて待っている。
近寄った鈴音を真っすぐ見つめ、彼女の顔を優しく両手で包み込んだ。
「なぁ、俺たちの契約結婚をもう解消しないか?
そして......」
言いかけたとき涼介のケータイが鳴り、外へ出た。とっさの出来事に鈴音の体は一瞬硬直し、頭の中が真っ白になる。
繰り返し【解消】という言葉が耳に響き続けた。
(あぁ、遂にこの時が来てしまった。
涼介さんの電話を立ち聞きした日から、このことを考えない様にしていたのに。
ただ一緒にいられればいいと思っていたのに。
涼介さんにとって、これたただの契約だったんだ。
やはり私は愛されていなかったんだ......
勘違いしていた自分が悪いよね)
電話を終えた涼介がドアを開け
「すまない、大至急事務所へ行かなければならなくなった。抜糸が終わったら連絡しなさい。
あっ、帰ってきたらさっきの話の続きをしよう」
早口に伝えさった。残された鈴音はしばらく立ちすくみ、鉛のように重く感じる身体を引きずるようにして病院へ向かう。
「はい、これで抜糸は終わったよ。痛くなかったでしょう?傷跡は薄く残ってしまうな......」
申し訳なさそうに彰人がいった。
「......お世話になりました。ありがとうございます」
浮かぬ顔で礼を言い立ち上がる。診察室に入ってきた時から鈴音の様子に違和感があった彰人は、彼女をランチへ誘う。
「ねぇ、鈴音ちゃん、丁度お昼だし一緒にランチ行こうよ。僕のおすすめの店教えてあげる」
半ば強引に鈴音を連れ出し、彰人が案内したのは裏通りの商店街にある喫茶店”BON"。
店の中は読書ができるくらいの明るさでカウンター席とテーブル席があり、かすかにジャズが聞こえる。
落ち着いた雰囲気でレトロ感ある昭和の喫茶店のよう。
こじんまりとした店のカウンターには、五十代くらいのニット帽をかぶったマスターらしき人が、
コーヒーを入れている。
彰人に気付いたマスターはニッコリ笑う。
「おっ、あきちゃんいらっしゃい。好きなところに座って」
店の奥に席を取り、マスタ―と同年代と思われる品のある女性が注文を受けた。
「ここの店はね、雅の両親がやってるんだ。鈴音ちゃん雅の事覚えている?
伊集院事務所創立記念パーティーで僕たちと一緒にいたでしょう?
おじさんね、早めにリタイアして趣味でやっていた喫茶店に専念しているんだ。
さっきの女性は雅のお母さん。
いいよね、夫婦仲良くってさ。
そういえば鈴音ちゃん、元は伊乃国屋で働いてたんだっけ?」
「はい、私が働いていた時はもう西園寺京《さいおんじきょう》さんが社長でした......」
「何かあったの、鈴音ちゃん? 」
「えっ?......」
「ずっと上の空だよ。僕でよければ話聞くよ」
「......あ、あの彰人先生は何て......
私と涼介さんの結婚の事どう聞いていますか?」
「もしかして契約結婚の事?その経緯は涼介から聞いたけれど、正直初めは驚いたよ。
鈴音ちゃんも知っているでしょう、アイツ女性に対してとても冷めているって。
だから絶対結婚はないと思っていた」
「私たちの利害が一致して。でももう......終わりみたいです」
ぽろぽろと鈴音は涙を流す。
「えっ、どういう事?それ涼介に言われたの? 」
鈴音は泣きながら頷く。
「ちょ、ちょっと待って、本当に?......アイツときちんと話し合った方がいいよ」
「涼介さんが帰ってくる前に出ていきます......」
「待って、話さないとダメだよ。僕が思うに、鈴音ちゃんは涼介の事好きなんでしょう?
そうでなければそんなに泣かないもんね」
彰人はさり気なくケータイをテーブルの下に持ってきて、メッセージを送る。
「ねぇ、どうして話さないまま出て行こうとしているのか教えて? 」
「わ、私がいけないんです。契約結婚なのに、涼介さんの事好きになっちゃって。
愛されてるって勘違いしちゃって......
涼介さん本当は結婚なんてしたくなかったし......
それに私のストーカー問題も解決したから。
だから......
だからもう一緒にいる意味なんて、ないんだと思います」
「鈴音ちゃんはハッキリ涼介から契約終了の理由聞かされてないんだよね? だったらなおさら話し合わないと! 」
「涼介さんと初めて会った日、とても傷つくこと言われたんです。
でも契約結婚中は演技していたからとてもやさしくて。
契約が終わってまた元の冷たい涼介さんに戻ると思うとつらいです」
「結論を早まっちゃダメだよ。僕には二人が本物の夫婦に見えるんだ。
契約中は夫婦関係がいいって周囲に見せかけてたんでしょう?
でもね、創立記念パーティーの時涼介が鈴音ちゃんの事かばったでしょう、いくら演技でもあそこまではしないよアイツは。
それにね、怪我して運ばれてきた日、涼介憔悴しきちゃってさ。『鈴音を失うのが怖かった』って言ってた。
僕、アイツのあんな姿見たの初めてだった......
もしかしたらアイツが本当に言いたいこと、
きちんと鈴音ちゃんには伝わっていないんじゃないかな?
あのさ、涼介の親友としてお願いする。黙ってアイツの前からいなくならないでね」