冷酷弁護士と契約結婚
最悪な出会い
ミッドタウン一角にあるビルの7階に伊集院総合法律事務所がある。

鈴音は伊集院涼介弁護士の部屋に通され、ローテーブルをはさんで彼の前に腰を下ろした。

(何だろう、とても居心地が悪い。さっきからこの先生の冷たくて敵意のある視線が......怖い)

鈴音は委縮して、涼介と視線を合わせることもできない。

名刺を差し出し、涼介は冷やかな口調で言った。

「初めまして、今回担当させていただく伊集院涼介です。父の伊集院からファイルを受け取りましたが、

初めからお話を聞かせてくれませんか?」

緊張して俯いたまま鈴音が話し始めた。その間涼介はノートパソコンに時折打ち込みながら、彼女を観察している。

(コイツのこの態度、わざとか?オドオドしやがって。見ているだけでイラつく。

そういえば以前受け持った案件でも、ウソ泣きして被害者ヅラした女もいたな......)

話が終わり、涼介はパソコンをテーブルに戻した。目の前に座っている鈴音は、相変わらず俯き両手を膝の上で組んでいる。

そんな彼女をしばらく見つめ、つのるイライラとともに冷たく言い放った。

「ハァー、よくいるんですよ、被害者ぶって大げさに騒ぐ女性が。あなたもその一人では?」

本来なら聞き心地のよい涼介のバリトンボイスが、氷の矢のごとく鈴音の心を打ち砕く。

今まで何回も言われ続けた、『本当に君は何もしていないのか?』 『あなたにも非があるのでは?』 

『誘ったのはコイツだ!』

鈴音は思わず顔を上げ、ただ目を見開いて絶望的に涼介を見ることしかできない。

(あぁ、またか。この人も同じで私を信じてくれない。何もしていないのにどうして?)

何かを言えば涙が溢れそうなので、スーッと立ち上がり会釈をして急いでエレベーターへ向かった。

足早に去る彼女の背中を見つめ、深くため息をつく涼介。

(やってしまった。確かに嘘をついているようには見えなかったが。アイツを見ていたらつい傷つけることをいってしまった)




外はもうすでに暗く、いつしか窓には雨が激しく打ち付けている。涼介は急いでエレベーターホールへ向かった。

エレベーターが閉まりかけていると涼介の手がそれを防いだ。驚いている鈴音を横目でちらりと見ながら、地下駐車のボタンを押す。

息が詰まりそうな沈黙の中、1階でドアが開いたが涼介が鈴音の腕をつかんで離さない。恐怖に満ちた彼女の目をじっと見つめ

「送るから一緒に来い」

拒否権はないとばかりに言い放つ。
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